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贖罪
自分の殻に籠って過去から身を守っているうちに、気が付いたら十五年の年月が経過していた。
それに本当の意味で気が付いたのは、一通の手紙がきっかけだったんだ。
……ああ、持ってきている。読んでみてくれ。
そうだ。差出人はあの時の赤ん坊だ。といっても、今は十五歳の中学生。女の子だったんだな。
彼女は大きくなって、自分のルーツを探しはじめた。――当然、母親が死んだ理由を調べるよな。それで、俺達の存在に行き着いた。
「あの時は命を助けてくれて、ありがとう。命の恩人のあなた達に、是非一度会ってお礼がしたい」――手紙にはそう書いてある。
ん? 消印が随分前じゃないかって? そうだよ、ちょうどお前が南国で肌を焼いている時に、その手紙が届いたんだ。
教えてくれりゃよかったのにって?
……そうだな、お前に連絡をしなかったのは、俺の勝手だった。悪かったよ。
――耐えられなかったんだ。これ以上罪を背負ったまま生きる事に。だから、お前の帰国を待たずに、彼女と会う事にした。
――は? そんなわけないだろ?
確かにこの手紙には、俺たちに対する感謝の言葉がずらりと並んでいるけれど。まさか、俺がそれを額面通りに受け取ったと思ったのか?
お前にとって俺は、「命の恩人だ」と賞賛されるために、犠牲者のあの子と会うような人間に見えるのか?
――お前だけは俺の事を理解してくれると思ったんだけど――違ったんだな。残念だよ。
俺は、謝りたかったんだ。
ああそうだ、謝ったってどうにもならないさ。何をしたって彼女から母親を奪った事実は変わらないし、償う事だって出来ない。
それでも……いつかはちゃんと向き会わないといけない。
いつまでも穴蔵に引きこもって、現実から逃げ続けるわけにはいかないんだ。
特に、事件の当事者であるあの子が「会いたい」と望むなら、断る権利なんて俺には無いように思えたんだ。
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