祭り

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祭り

祭りの(あか)りの中を人がうねる。 丸い鼻の首を二つ重ねて、 しっかりと父親の頭にしがみついている子供。 赤い模様の浴衣(ゆかた)の裾を足にからませて行く若い女。 恥ずかしげも無く手をつないだ男女。 涼しげに切った髪の少女。 大事そうな子供の風船。 警官の笛。 進めない自動車。 一際(ひときわ)高い太鼓の音。 あたりの空気を圧しながら 山車(だし)がのろのろと通る。 待ちかねたように流れる人。 揺れる人と、音と、(あか)りの雑踏を 疲れた人が一人で通る。 子供を背負った酔った男が、警官となにか言い合っている。 声は人の流れの垣に聞こえぬ。 背中の子供が時々泣き出す。 急に傍らの女がぐいと男の手を引っ張る。 男は女と共に雑踏に消える。 警官は反対のざわめきに吸い込まれる。 さざめきは何時果てるともしれず、 雑踏は何処で終わるかは判らぬ。 疲れた人は無表情に、人の波に身を任せている。 その横を二台の車が通る。 ヘッドライトを異様に輝かせた、 草色に塗られた六輪の車体には、 赤い字の板切れがぶら下がっている。 「''EXPLOSIVES 爆発物"」 太鼓は遠近(おちこち)に鳴り合う。 掛け声は夜の空にあふれ、人はアリの様に行き交う。 又も山車(だし)がのろのろと通る。
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