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 オレは、此の橋の生まれた時から知っている。 夜になると鉄の鋲の赤い火が、蛍の様に飛んだ。 柳のテッペンまで上がると、決まって消えてなくなった。 「ホレ、風邪をひくてば。」 バアさんが心配した。 寒い日、汽車の汽笛が鳴った。ー又鳴った。 「人が轢かれたんだべか?」 大人が橋の方へ走って行った。 「馬の()っコがひかれたんだとよ。」 橋の隣に赤い小さな鉄橋があった。 火事だ。  カンーカンーカンー。 カンーカンーカンー。 「あゝ、燃えてる。」……「川向こうだ。」  カンーカンーカンー。 「橋の向こうだ。」……「どこの家だべか。」  カンーカンーカンー。 「だいぶ消えたな。」……「さあ、寝ろ寝ろ。」 「オレ震えちゃった。」 「な、橋の下でうなるんだ。」 「ん?」 「橋の下でうなるんだよ。」 「何が。」 「決まってるべ。お化けよ。」 「ほんとかあ。」 「ほんとよ。な、あそこで毎年人が死ぬんだ。                この前もな……。」 「深いのか」 「深いさ。うずがあって、河童がいるんだ。」  祭りには欄干にぼんぼりがついた。 バァさんに引かれて渡った。 その先はカーバイトの夜店だ。 ''風船'' ''メンコ'' ''金つば'' ''笛'' ''わたアメ'' 「この星がコンペイ糖ならなあ……。」 「さあ、帰ろ。」 橋だ。もうすぐ家だ。 * * * * * * 柳は生え変わり、水は過ぎる時を刻む。 橋は何事も無く河の上に立ち、人は今日も渡る。 子供が ''オレたち''と同じ様に 「カン」「カン」と石で叩いて通る。
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