青い空

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青い空

空の青さよ。 (すさ)まじい颱風の過ぎた後、      一変する舞台は季節の神のすばらしさ。 昨日までのギラギラと汗ばむ白光は掃き除かれ、 空がこんなに高く、 これほどに青かったとは……。 今はもう秋なのだろうか。 神経までも洗うあの暑さは何時の事だったのか。 それは確かに昨日のことが、 (ねむ)い目を伏せて辿ったこの路の上に、 いや、其れは確かに無かったのだ、 此んなに高い空は。 鳥は如何に幸福(しあわせ)か。 (あお)い空気を胸一杯に吸い、  無限の大気を憧れることを知らぬ。 そぞろの足を空に迷い、  ただ青い色に()かれつ、  遥かに漂泊(ただよ)う心を知らぬ。 今此処(ここ)(さかな)を放したなら、  燦麗(きらびやか)(うろこ)の色は紺青(こんせい)のそらを浮遊するだろう。 ーー()くて(うお)は 水の(はて)る岸を知らず、 (ひれ)(から)む藻もない自由の海を……、 だが 体を(やす)める石を何処に見るだろう。 広漠の海はあおいが、水底(みなそこ)の石は見えぬ。 かつて此の空の色を何処かで見た。 それは遠く、懐かしい匂いのする処だ。  白粉草の丘か?  三味線草の山か? ああ、やっとその匂いがする。 それは、甘い乳の匂いだ。 幼い日 僕はこの空を見た。  野は広く、山は高かった日々。  (すすき)一叢(ひとむら)でさえ、夢()せる森とも……。  花々のにおいは甘く、  草々の色は濃く。 其の空の如何に(あお)かった事か。 紺青(こんせい)の空の色は 僕の心をそそり、 清冷の空気の匂いは 僕の魂を運び去る。 ああ、無為に過ぎ去った日々よ。 如何許(いかばか)り僕を(かな)しめようとて()くも青き空を運び来るのか。 ああ、ーー青い空よ。
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