12人が本棚に入れています
本棚に追加
青い空
空の青さよ。
凄まじい颱風の過ぎた後、
一変する舞台は季節の神のすばらしさ。
昨日までのギラギラと汗ばむ白光は掃き除かれ、
空がこんなに高く、
これほどに青かったとは……。
今はもう秋なのだろうか。
神経までも洗うあの暑さは何時の事だったのか。
それは確かに昨日のことが、
睡い目を伏せて辿ったこの路の上に、
いや、其れは確かに無かったのだ、
此んなに高い空は。
鳥は如何に幸福か。
蒼い空気を胸一杯に吸い、
無限の大気を憧れることを知らぬ。
そぞろの足を空に迷い、
ただ青い色に魅かれつ、
遥かに漂泊う心を知らぬ。
今此処に魚を放したなら、
燦麗な鱗の色は紺青のそらを浮遊するだろう。
ーー斯くて魚は 水の涯る岸を知らず、
鰭に絡む藻もない自由の海を……、
だが 体を息める石を何処に見るだろう。
広漠の海はあおいが、水底の石は見えぬ。
かつて此の空の色を何処かで見た。
それは遠く、懐かしい匂いのする処だ。
白粉草の丘か?
三味線草の山か?
ああ、やっとその匂いがする。
それは、甘い乳の匂いだ。
幼い日
僕はこの空を見た。
野は広く、山は高かった日々。
薄の一叢でさえ、夢馳せる森とも……。
花々のにおいは甘く、
草々の色は濃く。
其の空の如何に碧かった事か。
紺青の空の色は 僕の心をそそり、
清冷の空気の匂いは 僕の魂を運び去る。
ああ、無為に過ぎ去った日々よ。
如何許り僕を哀しめようとて斯くも青き空を運び来るのか。
ああ、ーー青い空よ。
最初のコメントを投稿しよう!