礎石

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礎石

夢にそ見れる故郷(ふるさと)の吾が住みし家。 たどり来て見れば今はなく、 礎石の侘しく並び居れる。   礎石(いしづき)の上に苔生え、はや草の覆える 懐かしの住まいの跡に、 人知れず涙こぼるるを。 此の(あた)り父の(すわ)れる。此の(かた)は母の(おわ)せし。 妹の(まろ)びて泣ける。弟と争いせしは 此処ぞ、彼処(かしこ)ぞ。 今は手に触るるよすがも無し。 そこはかと葉擦れの音に 見上ぐれば、 此れぞ(くぬぎ)。 あゝ、その上に幾時(いくとき)()りし。 秋は子等の手に実を降らせし。 今、吾を迎うるは(なれ)独りか。  窓辺より(なれ)を見上ぐる 幾年(いくとせ)の夢も空しく 今は唯礎石(そせき)の上を辿る。
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