詩集 かたつむり

あゝ、みんな昔のままだ

高いポプラ。青い芝生。
玄関の前の一本の大松。
日曜の校庭の限り無い静寂。
静寂。ー　あゝ、みんな昔のまゝだ。

段々に連(つら)なる鉄棒の脇の
小さな水の流れ。
遊び疲れて足を浸しつ、
水を振りかけ　いじめた子蟻の
今も這う、ー　あゝ、みんな昔のまゝだ。

この疵(きず)だ。
ナイフで抉(えぐ)った大きなSの字。
今は都で法科を学ぶ、
あいつと一緒に坐った机だ。

ー　この窓だ　ー。ー　この柱だ　ー。
ー　この壁だ　ー。ー　このゆかだ　ー。

ひとつひとつに想い出の湧く、
どれにも友の笑顔が浮く。
　　あゝ、みんな昔のままだ。

( 先生！)(ハイ　先生！)
きこえる、ー 無邪気なハーモニーが。
(静かに！　ー 次の頁を読みなさい。)
あゝ、なつかしい恩師の声だ。
　大好きだったあの顔だ。

樹葉(じゅよう)の緑映(は)えるこの池畔(ちはん)。
渾々(こんこん)と今も湧き出るこの清水。
友と時を忘れて画(か)いたあの睡蓮(すいれん)。
　あゝ、ー　みんな昔のままだ。