昼寝

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昼寝

ブーンと一匹の蝿が()んで来て、 昼寝の子供の顔に ひょっと止まる。 子供は幼い睫毛(まつげ)をピクッと動かす。 小さい手で、小さい鼻の頭をこする。 蝿は素早く逃げて(あた)りをぐるぐる廻る。 薄暗い壁にしばらく止っている。 思い出した様にものうい羽音を立てて、 気紛れに 壁と、子供の間を往復する。 真昼の部屋に電灯がぶら下がっている。 畳が、庭の光りを受けて青白んでいる。 母親の添い寝の手が、子供の顔の上を時々払う。 物売りの声も遠のいて、カサリともしない 静かな時が過ぎる。 母親の手も何時しか止まり、 二人は、信頼と愛情の笑みを寄せて(おだ)やかな午睡(ごすい)にふける。 蝿だけが思い出した様に場所を換える。 庭の棚には夕顔の(つる)が垂れている。 紫陽花(あじさい)の葉に蝸牛(かたつむり)が這っている。 (ものう)い真夏の陽は、木の緑に映えて青い色に なっている。
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