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雪は冷たく、そして静かに見守る
純白な空から誰かの落とし物が降ってくる。
音もなくただゆっくりと丁寧に、大切なものを扱うように次々と地面に振り置かれていく。
一つ、また一つ。
そうしていると時々焦るように乱雑に雪が舞い降ってくる。子供が無邪気に掴んで投げるようにして舞い降り、時には蹴り上げるように舞い散る。
小さな一つ一つの落とし物が、この世界を純白に染め直していく。
「──バス遅いね。今日も雪で遅れるんかな......」
バス停横の待合室に座る私。そのすぐ横に座っていた君の声がこの小さな待合室に響く。
「......そうみたい」
雪の儚い景色を虚ろに見ながら私は答える。
音が寂しい。
音が迷子になって私達を見失っている。
雪が音を奪っているのだとわかると、途端に無音なこの雪の世界が冷酷で酷い世界のように思えてしまう。
私達の存在すら奪われるような錯覚を感じ、私は無意識で逃れるようにスマホを取り出す。
「もう30分経ったね......」
私はスマホに表示された時刻を見て、そう呟いた。
「今日は何時に帰れるかなぁ」
大きい背中を反りながら君は待合室の天井を見つめる。
私も同じように天井を見つめる。
「天井低いよなぁ、ここの待合室......」
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