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さっきまでの気まずい空気は嘘のように、この待合室に甘い空気が満ちて私達を柔らかく包んでいる。
──きっと今、この小さな待合室を知らない人が見たら、凍てつく寒さの銀世界に閉じ込められ、さみしげで親に叱られる子供を見るように、無力で弱々しく見えるのだろう。
この小さい夢の世界のような、恋の花が咲いた春の空間は私達だけが知っているのだ。
その夢の世界から覚まさせようと、雪風が勢いよく待合室の窓を吹き叩く──。
私は驚き混じりに、悲しく思いながらその窓から外を見る。
君の乗るバスが来てしまったと思ったからだ。だがそこにバスの姿はなく、ただ雪が緩急をつけて行き交うのみだった。
「寒い? マフラー巻くね」
君はそう言いながら私にマフラーをかける。本当は別に寒くはなかったが君の優しさが嬉しくて、罪悪感を感じながら嘘の頷きを見せて巻いてもらう。
それから私の首に回したマフラーを少しぎこちなく、君は自身にも巻き始める。
恥ずかしさで顔を赤らめ下を見ながら、動きが硬い新品のロボットのように君はマフラーを巻いていく。
その様子を見ながら私はなぜか、そんなわけがないのだが、私と君とを繋ぐマフラーからお互いの体温が混ざり、そしてお互いの身体に流れ込んでくるように思えてしまって、よくわからない恥ずかしさに襲われる。
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