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あぁ......バスが来た......。
終わってしまう......。
私の小さな幸せが、終わる......。
──横に座っていた君は立ち上がり、忘れ物がないか確認してバッグから定期券を取り出す。
そして何故か君は自分が巻いていたマフラーを解いていく。
「次のバス遅くなりそうだし、寒そうだから貸してあげるよ」
そう言って私にマフラーを巻いていく。
一周、そしてもう一周。
さっきまで君が巻いていたところが唇に触れて、私は顔が一気に熱くなるのがわかる。
「じゃ......また明日......ね」
「──うん、ありがと......バイバイ」
そう言葉を交わすと君は待合室を出てバスに乗ってしまった。バスの座席に座った君が手を振り、私も振り返す。そしてあっけなく、名残惜しさも感じさせずバスは動き出し遠ざかってしまった。
一人の待合室に私だけの吐息が響く。
首元には暖かい人のぬくもりを感じるが、
(──寒い)
心にはさっきまでなかった大きな穴を感じ、冷たく寂しい風が吹き抜けていく。
私は寂しさのあまり、君のぬくもりを求めてマフラーに手を伸ばす。
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