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『飲まないの?
紅茶が目ぇ回してるよ。』
コーヒーカップをソーサーに戻し、テーブルの上で腕組みしながらこちらを向く。
初めて見る優しい表情に胸の奥がムズムズしてくる。
私は気が付くとお砂糖を入れた紅茶をスプーンでずっとぐるぐる混ぜながら横川くんをぼんやりと見ていたようだ。
『あ、うん、飲むよ飲む飲む。』
ひと口飲み込んで窓を見る。
美しいステンドグラスの向こうは雪が降り出していた。
ここまでどうやって来たんだっけ?
自己紹介の後、びっくりしすぎて歓談の時間になってもふわふわと何も考えられず、みなさんと交流もせずに会場から出た。
すぐに追い掛けてきた横川くんに『話をしよう。』と手を掴まれ連れられて一緒にカフェに入ったんだ。
『話っていうのはさ。』
横川くんの声にまた我に返る。
『うん。』
『俺と付き合ってよ、ってこと。』
『……うえっ?!』
思わず素っ頓狂な声が出た。
『そんなに驚く?
全然予想してなかった?』
『…してなかった。』
『あはは。まあ、そっか。』
全く考えていなかったわけじゃない。
さっき会場から出て手を掴まれた時、汗ばんでた横川くんの手にちょっと何かを感じたのは確か。
でもさ…私に好きになってもらえる要素ある?
『‘俺が機械人間だったんだぞ。付き合ってやるよ。’と思ってるんじゃないのはわかって欲しいんだけど。』
『そんな人だとは思ってないよ!』
一緒に仕事してきて、態度はデカいけどそんな傲慢な人じゃないのはわかる。
『よかった。
機械人間のファンだって言われて意識したのはもちろんなんだけど。
紺野のこと、もともと面白い人だなと思って見てたんだ。
…これも後付けに聞こえても仕方ないんだけど。』
いつも自信満々に見えるのに、照れたように手を組み替えたりおしぼりを触ったりする様子にまた胸の奥が疼く。
『ぼんやりしてるようでも仕事はピカイチだし。
1人でいることが多くて取っつきにくかったけど話し掛けると面白くて。
女性と付き合ったことがあまりないから退屈させるかもしれないけど。
紺野とはもっと色んな話がしてみたい。』
そんな風に見てくれてたんだ。
真っ直ぐな人だとわかってるだけに、素直に嬉しいし照れ臭い。
で、ひとつ引っかかったことを聞いてみる。
『女性と付き合ったことがあまりないって…。
横川くん、モテるでしょう?
エスコートもスマートだし、さっき桜野さんともすぐに親しげに話したりして…。』
『桜野さんとはさ、2回会ったことがあるんだ。
高校の頃から書いていたから、今までにもオフ会があったんだよ。』
『そっか…そんな前から書いてんだもんね。』
ちょっとホッとしてる自分がいて、またムズムズする。
『それにさ。
妄想では何回も付き合って何回もデートしてるからさ。』
赤い耳を触りながらはにかんだ。
『で、返事はもらえるの?
急なことで戸惑ってる?』
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