24人が本棚に入れています
本棚に追加
4
カフェから出ると、駅前通りは白く色づいていた。
人通りはまだ多いけど、雪が音を吸収し穏やかな時間が流れている。
扉を出たところの段差で『滑るから気を付けて。』と腕を支えてくれる。
横川くんが広げてくれた折り畳み傘に2人で入り歩き出した。
思っていたより大人なんだよなぁ。
横川くんを知るごとに機械人間さんとぴったりと重なっていく。
もうどっちがどうとかどうでもよくなってきてる。
さっきの私の言葉を聞いた後、横川くんは余計なことは聞かず『わかった。』と言ってくれた。
面倒臭い私を包み込むような優しさに泣けてきた。
『無音の音か…。』
ふわりと落ちくる雪を傘から差し出した大きな手で受け止めながら横川くんが呟いた。
それは私が、月夜行がこの前書いた言葉だ。
こんなふとした瞬間に彼の口から零れた事に息が止まる。
『俺さ、バリバリの理系人間で、まわりもそう思ってて、だから実体験の伴わない妄想だらけの恋愛小説書いてるなんて知り合いには口が裂けても言えないと思ってて。
ちょっと孤独だなと思ってて…。』
立ち止まって私を見る。
『オフ会で知り合った人は分かち合えるけどそうじゃなくて。
俺も機械人間も知ってる人に認めて欲しいというか…。
だから紺野があのサイトを見てるとわかった時、紺野なら、と思ってしまった。
でも幻滅させたかな。
機械人間は機械人間でいればよかったかな。
勝手な思いをぶつけてごめん。』
横川くん、違う違うの。
それにもう幻滅なんてしようがない。
『さっきのは断りたい為に答えを引き延ばしたんじゃなくて。
言いたいことはね…』
私は携帯で自分のページを表示し、横川くんに見せた。
『私もファンと言ってくれたから幻滅されるの怖くて。
バラすことによって横川くんの目を気にして今まで通りに書けなくなるのも怖かった。』
横川くんは画面と私の顔を見比べて満面の笑顔になった。
そして傘を放り出して私に抱きついた。
『ほんとに?
紺野が月夜行さんだったら面白いのにと思ってたんだよ!』
言ってしまったら、抱きつかれた勢いで私の心配なんて弾け飛んだ。
私ともっと話がしたいと言ってくれた横川くんの気持ちがわかってきた。
私もたくさん話して同じ時間を過ごしたい。
私達を避けながらちらちら見やる視線にお互いハッとして笑いながら離れた。
道の真ん中で抱きつかれるなんてことが私の人生に起こるなんて、またまた大事件よ。
そして抱きついた横川くんにも大事件に違いない。
『あのサイトの今回の短編コンテストのテーマ、雪の思い出だよね。
今日の事、書くかな?』
傘を拾いながら聞くと、横川くんはニヤリとした。
『もちろん。』
『どちらかが賞を取ったら、負けた方が奢りね。』
こんなやりとりが楽しいとは思ってもみなかったよ。
横川くんは『思いっ切り甘く書いていたたまれなくしてやる!』と言った。
それは…なんか困る!
最初のコメントを投稿しよう!