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「……ごめん、お父さんが迎えに来てくれたみたいだから、今日は帰るね。ありがとう、楽しかった」
鞄からスマホを取り出した私は、購入した時から変わっていない待ち受け画面に目を落として、にっこり笑った。
「そっか。お父さん、お母さんとも久しぶりだもんね」
「親孝行してきな」
「また、帰って来るよね?」
それを聞いていた同級生達はみんな、そう言ってくれる。
ありがとう。本当に。
「じゃあ、麗華、直美。今日は誘ってくれてありがとう! 正樹、大和、ごめんね。お店頑張ってね」
そう言い、私は返事を待たずに走り始めた。
「綾子ー! また連絡するから! 今度は三人で女子会しよう!」
麗華と直美は、そう叫んでくれる。だけど。
ごめんね。それは約束出来ないと思う。
ホテルから出た私は、父の車を待つことなどせず、一人雪道を歩いて行く。
だって、来てなんて言っていないのだから。
向かった先は駅だった。
今なら最終電車に乗れる。それで行けるところまで行って、適当な場所で泊まろう。
実家にも立ち寄らない。
父は待ってると言ってくれていたけど、こんな私の姿を見せるなんて、一番の親不孝だから。
雪道を歩いていると車から眺めていた時に感じた通り、やはり街並みは十年前と変わっていて私はまるで全然知らない世界に迷い込んだみたいだった。
私だけ目的地に辿り着けず、永遠と迷い続けるのだろうか……。
そんな思いを抱えながら歩き続けていると、目の前には廃校予定の高校校舎。
私は十年前も、この場所で立っていた。
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