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物心ついた頃から服のデザインを考えるのが好きだった私は、落書き帳にドレスの絵ばかり描いていた。
それをみんなが上手いと褒めてくれ、拓也は将来のウエディングドレスにしたらと、ふにゃと笑って言った。
その頃から私は拓也が好きで、もしその横に居てくれたらと何度も想像していた。
家が近く、ずっと一緒だった私達は高校に進学し、そして付き合うようになった。
どっちから言った訳でなく、ただ手を繋ぐだけの関係で、本当に付き合っているのかは分からなかった。
でも子供ながらに真剣だった。
ずっと拓也と一緒に居たい。そう願っている自分がいた。
高校二年生の冬。
本格的に進路を考える頃に、私はデザインについて学びたいと思った。なんとなくで思っていた夢を本気で叶えたいと願った。
でも専門学校は都会にしかなく、それに加え家は小店だが代々と続く販売業を営んでいた。
両親には好きなことをしたら良いと言われていたけど、本当は継いで欲しいと分かっていた。
一人悩んでいると、母が受験するように言ってくれ、父は何も言わなかったけど私がやりたいことが出来るようにと、お金を準備してくれていた。
私は両親のそんな想いに絶対に合格すると決意し、ひたすら勉強した。
だけどそのことを拓也にだけは言えず、直美と麗華に早く話したほうがいいと諭されたけど、伝えることは出来なかった。
言葉にしたら、全てが壊れてしまいそうだったから。
そのうちに拓也もよそよそしくなっていき、私達の間に会話はなくなり、少しずつ距離が出来てしまった。
こうして迎えた高校三年生の夏。本格的に進路を決める時に、私は都会の専門学校を受験する予定だとクラスみんなが知ることになった。
殆どの子が家業を継いだり地元での就職を決める中、私だけ親のお金で進学する。
そこには後ろめたさがあったけど、みんな応援してくれて、私は頑張ると決めた。
……でも、拓也だけは何も言ってくれなかった。
だから私も、何も言わず受験した。
初めて行く都会に戸惑いながら、なんとか受験先の専門学校に辿り着き試験を受けた。
実力は出し切れたという安堵と共に、こんな都会で一人暮らしなんて出来るのかと、満員電車に揺られながら流れていく景色をぼんやりと眺めていた帰り道。
だけど、そんな気持ちを誰にも相談出来なかった。自分が決めたことだったから……。
高校三年の冬の始まり、初雪がちらちらと降った日に合格通知が届いた。
夢に向かって一歩前に踏み出した喜びと同時に、何とも言い表せない不安や恐怖を感じ、布団を被り震えて泣いた十八歳の夜。
そんな私を慰めてくれるように、雪はただ静かに降っていた。
三月一日。雪がまだ残る中、卒業式が執り行われた。
クラスメイト達は「いつでも会える」と言い合っていたけど、私にだけ「また会おう」だった。
その言葉に笑って頷いたけど、本当は今にも泣き出しそうだった。
そして、拓也はやっぱり何も言ってくれなくて、本当の意味で別れが近いのだと感じ取っていた。
だけど、私は終わらせたくなかった。
進路について相談出来なかったことを謝り、遠恋になるけどこれからも付き合っていきたいと拓也に伝えようと決めた。
メッセージアプリで、上京前日の夜八時に高校の校門前で話がしたいと連絡した。
返事はなかったけど既読表示はされ、読んでくれたと分かった。
だから私は、在校生や先生達が帰宅した後の薄暗い街灯に照らされた場所で、降り続ける牡丹雪を眺めながら、ただ待っていた。
……だけど、拓也は来なかった。
時間が過ぎても、牡丹雪が降り続けても、手が悴んで震えても。
ずっと待っていたけど、やはり来てくれることはなかった。
私は、やっと悟った。
この恋は……。
私の初恋はとっくに終わっていたのだと。
何の相談もせず勝手に遠くに行く私を、拓也はとっくに見切りをつけていたのだと。
一番の理解者だから、私の考えを分かってくれている。
なんて傲慢な考え方だったのだろう。
こんな私だから拓也は愛想を尽かし、離れていった。
それに気付いた私は牡丹雪が降る中、一人大声で泣いた。
そして決意した。
もう泣かない。泣き言も言わない。恋もしない。この地にも帰って来ない。
全てを捨てて、夢にのみ向かって生きていくことを。
上京する為に電車に乗る私を見送る為に来てくれた幼馴染達に別れを告げ、都会は行かないと言っている父に育ててくれた礼を告げた。
それから私は専門学校で必死に勉強し、両親には学費の面で迷惑かけているからと生活費とアパート代を賄う為、アルバイトを掛け持ちした。
がむしゃらに頑張って十年。今の立場を手に入れた。
しかし、私はこの町に帰って来てしまった。
その理由は……。
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