十年越しの雪溶け

6/9
前へ
/9ページ
次へ
「綾子」  その声に振り返ると目の前には拓也が居て、同窓会を抜け出して追いかけて来てくれたのだと分かる。 「大丈夫か?」  その言葉に心臓がドクンと鳴る。  ああ、やっぱり隠せてなかったんだって。  私はこの十年間で、本心を隠すのが上手くなったと思っていた。  そうならないと、あの厳しい世界で生きていくことは出来ないから。  辛くても苦しくてもそれを表に出さずに、ひたすら突っ走るしかなかったから。  いや、他人にだけでなく自分にも本心を隠していた。  ……私は自分の限界に、とっくに気付いていた。  周りを見れば才華にあふれ、その持ち前のセンスでデザインを開花させ、それを形として彩っていく同僚達(なかまたち)。  それは私には絶対思いつかないものばかりで、努力では埋められないものがあるのだと思い知った。  そんな辛い気持ちを誰にも言えなくて、若い才能に嫉妬する自分の醜さに苦しんで、才華のない自分を認められなくて、私は私にずっと本心を隠して生きていた。  でももう限界で、体を壊してしまい現在は休職中だった。  そして今日、私はこの町に逃げ帰って来てしまった。  そんな気持ちを隠していたつもりだったけど、やっぱり両親も幼馴染も元彼も、誤魔化すことなんて出来なかった。  情けないよね。みじめだよね。  もう、消えてしまいたい……。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加