Ⅰ.校内保全委員会

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Ⅰ.校内保全委員会

 高校生活が始まってすぐの頃、私は選択を迫られた。  部活動に入るか、生徒会活動に参加するか――。  私は高校生活において如何なる組織にも所属をする気が無かった。しいていえば帰宅部として活動する気満々でいた。悠々自適にお家時間を過ごし、適度に勉学に励み、お小遣いに困るようなことがあれば、アルバイトに精を出せばいいと考えていた。  それなのに我が県立樫ノ木(かしのき)高等学校は、部活動か生徒会活動か、そのどちらかへの参加を「推奨」という名の強制力で、私に課した。  推奨の「推」は「推薦」の「推」だ。これに逆らって進学に影響が出る可能性を考えれば、どちらかに入るべきなのは明白だった。  でも……部活動はあり得ない。そんなパワーはない。  じゃあ生徒会?  ……いやいや生徒会って。私はそんなガラじゃない。生徒会と言えば生徒の代表的存在だろう。人前に出たり、学校行事に従事したりするイメージが付きまとう。無理無理。私には無理。じゃあ、どうすれば……。  四月下旬になっても、まだ宙ぶらりんだった私に声を掛けたのは、担任の進藤先生だった。 「――榎本さん。私の担当している『校内保全委員会(こうないほぜんいいんかい)』に入ってみない?」 「委員会……ですか?」 「そう。委員会も生徒会活動の一部なのよ」  寝耳に水だった。そして渡りに船だった。  話を聞けば、その『校内保全委員会』という委員会には、定期的に実施する活動は特に無いという。  例えば『環境委員会』であれば週末毎に校外のゴミを拾い歩いたり、『厚生委員会』ならば、毎月地域のボランティア活動に参加したりと、何かしらの定期的な活動が行われている。そういった主だった活動がないというのだ。  『校内保全委員会』は、生徒から挙がった意見を聞き、校内の安全や過ごし易さを阻害する内容であると判断した場合に、対策を講じるのが仕事らしい。  つまるところ、生徒から意見が挙がらなければ、その相談に乗る必要も無いし、対策を講じる必要も生じない。  さらに好条件は続き、現時点での所属生徒数は一名。三年生の女子生徒が委員長として所属しているのみのようだ。後継者に困っていた折、無所属の私に白羽の矢が立った、というところだろうか。  何にせよ、上下関係というのは学生であっても面倒なものだ。所属が先輩一名のみとなれば、そのしがらみは最小限に抑えられる。 「私、校内保全委員会に入ります」  進藤先生の説明を聞いた直後、私は二つ返事で委員会への加入を表明したのだった。  この時、もっとしっかり説明を聞いておくべきだったのかも知れない――。
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