Ⅰ.校内保全委員会

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* 「――外履きを持ってきて。下駄箱と反対側の通用口から出るとB棟への近道なのよ」  委員会に入ると宣言した日の放課後、進藤先生は早くも私を連れて、校内保全委員会へ案内したいと申し出た。  腰の重い私がそれを即日許諾したのも、ゴールデン・ウィークの背中が見えてきた四月後半特有の浮つきのせいだったのかも知れない。 「B棟? 初めて入ります」 「そうね、新入生にはあんまり縁がないかも。私も委員会以外ではあまり来ないしね」  そう答えながら、進藤先生は傷んだ鉄扉を開けて足で抑え、私を外に出るよう促した。会釈しながら扉をくぐり、持っていた外履きを地面に落とす。少し湿った地面からは砂埃が立たなかった。 「履き替えたら、上履きを持って、こっちに来て」  いつの間にか履き替えを済ませている進藤先生は、既に前方で待っていた。  なるほど、外履き持参も頷ける。すでにB棟の入り口は見えているが、そこまでの道のりは、A棟の前と違ってまるで整備されていない。  ここを歩けとばかりに、一直線に雑草の生えていない黒土の道があるが、その外側は昆虫たちが喜びそうな中背の草が茂っている。これでは獣道と相違ない。そして転がったタイヤの内側に溜まった水が、ここの日当たりの悪さを物語っている。上履きで来れば真っ黒になりそうだ。  校舎の間を通り抜けた風が、湿った草の匂いを鼻に届けてくる。 「……なんか幽霊とか」 「でそうよね」  進藤先生は笑ったが、私からすれば笑い事ではなかった。 「安心して、毎日通ってるけど、私は遭遇したことないから」 「はい……」  少し「私は」の部分が気にはなったが、深掘りはしなかった。知るべきでないことは、知らないに越したことはない。着ぐるみの中身然り、アイドルの素顔然り。  私は進藤先生からなるべく離れないように、しっかりと地面を踏みしめて進んで行った――。
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