Ⅰ.校内保全委員会

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「――今瀬(いませ)さん、入るわよ」  B棟四階までの階段で息を切らしていた私とは対象的に、進藤先生は淡々と声を掛けると教室のドアを開けた。教室の外には「委員会室Ⅱ」とだけ書かれていて、一見してここが校内保全委員会のものなのかは分からなかった。 「あ、先生どうも。えっと、そちらは――」  教室の中にいる女子生徒は軽く頭を下げると、奥に立つ私の方を窺うようにして言葉を切った。私がそれに反応するよりも先に、進藤先生が私を前に押し出した。 「こちら、新入生の榎本伊沙姫さん。入会希望よ!」 「!!! 先生、本当ですか!?」  今瀬さんと呼ばれた女子生徒は、大人しそうな外見とは不釣り合いに飛び跳ねて喜んだ。  進藤先生とも旧知の仲のようで、二人で手を取り合って喜びを共有している。なぜそこまで喜ぶのか不思議ではあった。  私がその様子を静観しているのに気付き、委員長が駆け寄って来る。 「ごめんね、放ったらかして。改めて、私、校内保全委員会の委員長――って言っても一人だけど――をやっている、三年の今瀬樹里(いませじゅり)です。よろしくね」  大人しそうな雰囲気の女子生徒だった。色白で目尻の下がった優しい顔つきだったが、その風貌からは私より年上であることが明確に分かるほど、女性として完成しているなと感じさせられた。  ……オブラートに包まず言えば、出るところも出ているし、内から醸し出す妖艶な雰囲気を持った魅力的な女性だった。私とは違って。  まあ何にせよ挨拶してもらったからには返さねば。私も口を動かす。 「既に先生から紹介されましたが、一年の榎本です。校内保全委員会が何なのかよく分かっていませんが、よろしくお願いします」  想定より淡々と述べてしまった。もう少し愛想よく話せば良かったかなとも思ったけれど、別にここでまた「冷たい」という印象を持たれたとて平常運転だ。それも含めて私だと知ってもらう良い機会だと割り切った。  しかし委員長の反応は意外なものだった。目を細め笑みを浮かべていたのだ。こんなに可愛げのない後輩に対して。 「良いね、その感じ」  気を遣ったとかそういう言い方ではなく、心からそう言っているように思えた。私を見つめる優しい瞳が、そう語っていた。
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