Ⅰ.校内保全委員会

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 私が内心で驚いていると、委員長は私に問いかけた。 「榎本さん、よく分からないって言っていたけど、委員会活動について何か質問したいこと、ある?」  改めてそう問われると……どうしようか。  私はここまでで疑問に感じていたことを頭の中で反芻してみた。その結果、やはりどうしても訊かなくてはならないことがあった。 「――もしかして委員長は、校内保全委員会を辞めてしまうんですか?」  その言葉に、委員長と先生は顔を強張らせた。  まずい、直接的過ぎた。私のオブラートはこんな風に、すぐ在庫切れを起こす。空気の変化を察した私は慌てて言い直した。 「あ、違くて、すみません。辞めるというか、活動出来なくなってしまう理由か何かが、あるのかなって……」 「どうして、そう思うの?」  委員長がいかにも不思議そうに問い返す。私は感じた印象をそのまま口に出した。今度はオブラートを忘れずにと、心がけながら。 「……いえ、二年生もいないみたいですし、今まで一人で悠々と活動して来ただろう委員長が、私が入会するくらいのことで、なぜあんなに喜んだのかが不思議で。もちろん後継者という側面があるにせよ、四月に急いで生徒を連れてくる必要性があるとも思えませんでした。それに、先生から誘われてここへ来るまでのスピード感もすごかったので……もしかして、急いで増員する必要があったのかなって」  またつらつらと論じてしまった。悪い癖だ。 「それで、辞めちゃうんじゃないかって思ったんだ?」 「はい、そうです」  そして私は、何となく察し始めていた「嫌な予感」についても、この場の勢いに任せて言ってしまおうかなという気持ちになった。幸いなことに委員長も先生も、私の話をしっかりと聞いてくれる冷静な人のようだし。 「ちょっと……もう一つ、訊いてもいいですか?」 「ええ、もちろん」  よし。  いや実際は訊くまでもない。本当は分かっていることだった。でも本人達の口から聞くまでは諦めきれなかった。出来ることなら、私の推論を真っ向から否定してほしかった。 「……これは勝手な推察なんですけど。この委員会には『定期的な活動はない』と聞きましたが、もしかして『ここに来る』という行動自体は、毎日する必要があるんじゃないですか?」  私に言葉に進藤先生は目を丸くした。 「え……私それ、まだ言ってないよね? ていうかごめんなさい、言ってなくて……」  否定、じゃない。どちらかと言えば肯定だ。  やっぱりそうなんだ……。毎日ここへ来るんだ……。  まあ途中で気付いたけれど、私もやりますと言った手前、途中で投げ出す気はなかった。詳細を確認しなかったのは、私自身の落ち度だし。
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