はらりはらり

2/4
前へ
/15ページ
次へ
 まるで氷でできた指を押し当てられたかのように、冷気が頬を突き刺す。  はらり、はらり。  鈍色の空を見上げる。白い羽毛のようなものが、はるか高いところから音もなく静かに静かに降りてくる。雪だ。  はらり、はらり。はらり、はらり。  力なく差し出した手のひらに、羽毛のように、はらはらと散る桜の花びらのように、はらりと舞い降りる薄い薄い儚げな雪片。触れようとしたけれど、震える指先が届く前に、すうっと溶けて…消えてしまう。  はらはら、はらはら。はらはら、はらはら。  白い舞いはどんどん増え、視界を白く白く霞ませていく。寒い。寒くてたまらない。そして…。 「…」  ちぎれそうに痛む耳に何か聞こえた。遠くの方から、かすかな声が聞こえたような気がした。 「…ちゃん」  はらはらひらひら、視界を奪い惑わせる白い(ヴェール)の彼方から、聞き覚えのある声が切れ切れに聞こえてくる。 「…ちゃん。お姉ちゃん」 「莉音(りおん)?…」 「…ちゃん。た…て」  目を凝らしても何も見えなかった。あとからあとから落ちてくる凶々(まがまが)しい雪が邪魔をして見通しがきかない。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加