プロローグ

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プロローグ

その男は、強く、凛々しい男だった。 「うわぁぁぁ!鬼の軍隊長だ!」 「あの鬼神が来たぞ!!!」 隣国からの襲来した敵軍を退けよ、と命が下り、戦場を駆け抜ける軍人たち。その中に、ひときわ目立つ男がいた。男の名は、アルベルト・シュトラウス。「鬼の軍隊長」という異名をもつ、凄腕の剣士である。 「怯むな、かかれ!!!!」 黒髪に、射るような切れ長の瞳。返り血を浴びても、なおも斬り続ける。圧倒的な強さを放ち、他の追随を許さないその力を前に、敵軍の者たちはことごとく敗れていった。 「総員、俺の後に続け!」 力強い軍隊長の言葉に力を与えられた部下たちは、威勢のいい雄叫びとともに勇ましい英雄の背中を追って続いていく。戦場においては、向かうところ敵なしの、まさに「軍神」である。 だが、そんな泣く子も黙る軍神にも太刀打ちできないものがあった。 「こんにちは、アルベルト様。今日は、どのお花にしましょうか」 市街地の中心に位置するサンクロッカス通りにある花屋。 店主の娘に、にこりと微笑まれたアルベルトは、思わず目線を逸らして視線を彷徨わす。「任せる」とぶっきらぼうに返したその顔は、心なし赤くなっているようにも見えた。 赤みがかった腰まである長い髪に、垂れ目がちな大きい瞳。顔にはいつも柔和な笑みを浮かべた街でも評判の娘、メリア・ヴィーランド。 戦場で「鬼の軍隊長」と恐れられるこの堅物男は、現在、花屋の街娘に片想い中なのである。
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