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「ごめんください〜」
酒場に響いた明るい声に、アルベルトはチラリと入り口に目をやった。
そこに見えたのは、大きな花束。花に埋もれて、持ち主の顔までは見えなかったが、スカートを履いているところから女だということはわかる。店主とのやり取りを聞くに、どうやら彼女は花の配達のため店に来たらしい。
アルベルトは酒を片手に、騒がしい店内とは異なる雰囲気を放っていた花束の主の動きをなんとなく目で追っていた。
すると、顔を赤らめてニヤニヤと笑う酔っ払いが、花束の主の足元に自分の足をスッと出すのが見えた。足元が見えないであろう彼女が、その後どんな目に遭うか、瞬時に判断したアルベルトの行動はとても早かった。
「きゃっ……!」
ぐらりとバランスを崩す体に急いで駆け寄る。ぐっと手元に落ちてきた重みを、しっかりと抱き止めたアルベルトは、「大丈夫か?」と花束の持ち主に声をかけた。周りもアルベルトの行動に気づいて、なんだなんだと騒ぎ出す。
「は、はい!ありがとうございました!」
声は聞こえてきたが、まだ花束が邪魔で顔は見えない。とはいえ、彼女の身の安全が守られたことにアルベルトは、ほっと息をついた。
「んだよ、つまんねーな!せっかくチラッと見えるかと期待したのに」
と、そこに聞こえてきた酔っぱらいの声。アルベルトは彼女を離すと、「おい」と、つるりと光る後頭部へ呼びかけた。
「他の人間に危害を加えるほど酔っているなら、もう帰ったらどうだ」
怒気を孕んだ低い声。だが、アルベルトの言葉が癇に障ったのか、男はぐるりと振り向くと「ああん?」と語気を強めて詰め寄ってきた。
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