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「なんだよ!せっかく人が気持ちよく飲んでんのに、水差すんじゃねぇよ!」
ワイワイ、ガヤガヤと盛り上がっていた酒場の空気が途端に悪くなる。店内の視線が二人に注がれ、「そうだ、そうだ!」という野次まで飛んできた。エルドは慌ててアルベルトの肩を抑えると、「一般市民に手は出すなよ」と同僚を諌める。
「……わかっている」
エルドにそう返すと、アルベルトはくるりと男に背を向けて自分のテーブルに戻ろうとした。だが、酔っ払いはまだ絡み足りないのか、「おい、アンタ」とアルベルトの背中に呼びかけた。
「アンタのせいで、服が酒で汚れちまったんだが?」
男の言葉にチラリと後ろを向いたアルベルト。目が合った男は、ニヤニヤと笑いを浮かべながら「弁償してもらおうか」と、アルベルトに言い放つ。あからさまな挑発に、アルベルトの眉間のシワがさらに深まった。
「あ、あの!」
と、そのとき、女の声が店内に響いた。先ほど、アルベルトが助けた花束を持った女性である。
「私の不注意ですから。弁償が必要なら、私が……!」
女の言葉に、酔っ払い男は「そりゃ、名案だ」と、今度は下衆な笑いを浮かべて女の頭からつま先までを舐めるように見つめる。鼻の下まで伸びており、その顔を見れば男の魂胆など丸わかり。
「だったら、一晩付き合ってもらおうか」
と、酔っ払いの手が女の体に伸びようとしたその瞬間──。
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