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怯えるような視線があちこちから刺さるのを肌で感じたアルベルトは、小さくため息をついた。このような視線を向けられることには慣れている、が。
「……先に帰る」
アルベルトはエルドにそう告げると、店の出口を目指した。とっさにエルドが「はいはい、これにて終了〜!」とわざと明るい口調をあげると、周りはホッとしたようで、またワイワイ、ガヤガヤとした店の空気が戻ってきた。
「おい、店主」
店を出る前に、入り口にいた店主を呼び止める。店主までビクビクと体を震わせていたが、アルベルトは気にせずに、台の上に手を置いた。店主が不思議に思って手元を見ると、そこには大量の金貨。
「店の空気を悪くした詫びだ。ほかの客の支払いも、これでしておいてくれ」
「そ、そんな……!お客さん、こんなにたくさん……っ!」
呼び止めようとした店主の言葉にも振り返らずに、そのままアルベルトは店を出た。店の前は飲み屋が立ち並ぶ賑やかな通りで、あちこちで酔っ払いたちが楽しそうに歌っている。
やはり帰って書類仕事でも片付けよう、と思ったアルベルトは、王宮の方へと足を向けた。そのとき、「待ってください!」と澄んだ声が聞こえてきた。アルベルトが振り返ると、そこには赤い髪の女がいた。
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