443人が本棚に入れています
本棚に追加
◇◇◇
「膠着状態だった隣国が仕掛けてきた!前線にいる部隊の野営地に、敵が攻め込んできたらしい。お前たちも直ちに支度を整え、現場へ急行しろ!」
その知らせが届いたのは、もうすぐ日が暮れる黄昏どきのことだった。
訓練場で武器の手入れをしていると、総隊長であるマティアス・グレイバックが直々にやったかと思えば、争いが始まったという知らせ。途端に、その場に緊張が走り、みなの表情が引き締まる。
「先遣隊は武器を備えて、すぐに準備を!本隊は後から合流する!」
総隊長の指示に、軍隊長らは「はっ!」と敬礼して自身の部隊の部下たちに指示を飛ばす。周囲は瞬く間に慌ただしくなり、みな準備に勤しんでいる。
「総隊長、戦況はどうなっていますか」
回廊を歩きながら、総隊長の後ろをついていくエルドが尋ねる。マティアスは厳しい表情を見せ、エルドをチラリと見遣った。
「伝令の話によると、急な襲撃だったようじゃ。手負いの者も多いという話だ」
その言葉に、エルドの隣に並ぶアルベルトの眉間にもシワが寄る。
「相手の目的がわからない以上、油断できん。この戦いを皮切りに、我が国に攻め込まれるようなことがあってはならんからな」
マティアスの深刻な声色からも事態の深刻さが伝わってくる。アルベルトもエルドも手のひらをギュッと握りしめて、前を見た。その瞳は、戦士の目をしていた。回廊を出れば、出発の準備が行われている広場に出る。
最初のコメントを投稿しよう!