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それとも、私が煮炊きしたから、食べたくないとおっしゃいますか?
まあまあ、こんなに震えて痩せこけて、さぞかし貧しく落ちぶれてしまったんでしょうねぇ、うふふ。
仕方がありません、だって私は、貴方様のお祖父様に拾われた......うふふ、ふふふ。
昔話だと馬鹿にして、悔いても遅うございます。
いまさらあんなところ、戻りたいとも思えませんし、恩義などとうに使い切ってしまいました。
ええ、爪の垢ほどもございません。
それよりさあ、召し上がってくださいな。
たとえ物怪でも市井にいればそれなりに、装うことも覚えます。
山にいた時分は、赤いべべを着た五歳ほどの童を騙って、どうにか食い繋いでおりましたが、こちらではそうもいきませんからね。
ああ、そんなに睨んではいけません、どうか早く、早く召し上がって……ああ、遅かった。
せっかく作ったものが、ほうら、あっという間に台無し。
まるで貴方様のお屋敷みたいに、朽ちて乾いて、塵芥に早変わり。
先生、先生。
お弟子さん、どなたか。
ああ、これはいけない。
私としたことが、忘れていましたわ。
今日はね、先生もお弟子さんも、みなさんお城へ招かれて、私ひとりで留守を任されているんです。勝手もわかっているだろうし、と頼まれましてね。
だからこっそりお酒も御燗して......おやまあ、気を失ってしまった。
あんなに威張り散らしていたくせに、随分とだらしないこと。
細かく刻んで、山爺にでも食わせよか。
それとも私が骨の髄まで、喰らうてやろうか。
まだまだ夜は長いんだ、悪い夢でも見させてやろう。
ふふふ、魘されてらぁ。だから人間って馬鹿らしくって面白いんだ。
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