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まさかの同居⁈ドキドキが止まりません
「こんにちは、蜜流くん」
カフェ「和奏」。大学の通りにある、小さな店。
そこで働き始め、もう十年になる神崎 蜜流は今日もまた、頬の熱を上げていた。
原因はカウンターに座るお客様で、蜜流に声を掛けた男、葛城 ライのせいだ。
ハーフな顔立ちに、それだけでオーラがある人。なのに、それ以上に人柄が素敵だ。
和奏で働く神崎 蜜流は、葛城を前に今日も見惚れている。
「…こんにちは、葛城さん」
そう言うと静かに口角を上げてにっこりと、大口を開けて笑うわけではなく、静かに紳士的に笑いかけてくれる。
とてもじゃないけれど、通常の精神ではいられない。
今日もまた、高鳴る胸をドギマギさせていると、葛城の声が聞こえた。
「社長、今日はどれにするんですか?」
「ん〜やっぱり、本日のおすすめか?」
「か?って、まさか僕に聞いてます?」
葛城が言う。と、社長と呼ばれる男がニヒルに笑う。いつもの彼等のやり取りだ。
葛城と社長は和奏の常連だ。というのも、ここ一年、彼等がこの店に通ってくれているお陰だ。
社長と呼ばれた男、穂積は平日の午後ちょうどに顔を出す。その秘書、葛城はいつも一緒だ。
本日のおすすめを二つ、と葛城が言う。毎日、通い詰めてくれるおかげか、最近、客足も売り上げも上々である。
もちろん、彼等がしっかり店に貢献してくれているお陰だ。が、三割はきっと彼等のビジュアルに助けられている。
平均身長の蜜流でも思わず見上げる身長に、やけにスーツが似合う体格。脱いだらきっと、逞しい身体が隠れているに違いない。実際、葛城は休日はジムに行くことが最近の趣味だと言っていた。
証拠に今日も女子大生のささやかな悲鳴とハートの視線が怖いくらいだ。
しかし、店に貢献してくれるならば文句は言えない。それに、カウンター越し、わずかな距離で葛城を見れることが嬉しい。
本日のおすすめ二つですね、とマスターの栄 和泉が言いながら、厨房がある奥へと引っ込んだ。和泉は蜜流が葛城に気があることを知っているのだ。
奥にある厨房には、スタッフが二人。パートの楢崎とキッチン専門で正規職員の伊勢谷。ドリンクは蜜流と和泉が担当している。
おすすめについてくるドリンクは、コーヒーか紅茶だ。大抵は食後に注文される。
料理が出来上がるまで、正味十分。その間、社長は外で愛しの煙草タイム。
蜜流はたったの十分に、緊張しながらけれども楽しみにもしている。
「今日のおすすめは何?」
「今日は鶏の照り焼きと味噌汁、それからかぼちゃのチーズ焼きです」
「わお!それはいいね、僕の好物と社長の好物です」
「…葛城さんの好きなものはどっちですか?」
「どっちだと思う?」
切長で一重の鋭い瞳を細め、問う葛城に蜜流の胸はまた、ドギマギと煩い。
緊張しながら、多分かぼちゃですと言うと、惜しいねと言われた。
「かぼちゃも好きだけど、チーズが大好物なんだ」
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