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はつこい
はつこい。
それを語るあなたの横顔が、いじわるに見えたのは卑屈な私のせい。
はつこい。
それを語るあなたの声が、少し嬉しそうに聞こえたのも卑屈な私のせい。
はつこい。
それを語るあなたの気配が、遠く感じてしまったのも卑屈な私のせい。
大好きなの。
知らない人の話をしないで。
数ヶ月前、私は事故に巻き込まれた。
そのときから、あなたは私のそばで、たくさんの施しをしてくれた。
このまんま、普通に付き合って結婚するんだろうなって思えるぐらい、私はあなたに依存して、あなたの好みの女になろうとしてきた。
それなのに、最近あなたは初恋の話ばかりする。
学生時代に二人は出会って、いろんなことを誓い合ったらしい。
あなたを好きになるのに、理由なんていらなかった。直感的にそう思うのを止める理由もなかった。
数ヶ月前、私は事故に巻き込まれた。
そのとき、私は開頭手術をして、過去の記憶を手術室に落としてしまった。
あなたのはつこいが、私だとしても。
あなたに愛された過去の私はもういないの。
たとえそいつが戻ってきても、あなたを想う私の恋敵にしかならない。
ただの失恋じゃなく、
死んで失われた恋は強いという。
私は私自身を敵に回しながら、事故後に覚えたこのはつこいを燃焼させて愛にする。
過去の私のはつこいは、あなたじゃなかった可能性もあるよね、知らないけど。
でも今の私のはつこいは、確実にあなた一人のためにあるんだよ。
記憶にないもう一人の私。
どうかずっと消えていて。
これは今を生きる私の恋。
あなたを独り占めできない悔しさ。
だって同じ私じゃないんだもの。
あなたが幸せそうに語る人のことは。
矛盾かもしれないけど、
そのぐらい大切な恋なんだよ。
だからもうお願い。
あなたの二度目のはつこいを、
今の私にください。
end.
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