おじさんの関節痛トーク。

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おじさんの関節痛トーク。

「最近、冷え込んできたよなぁ」  枝豆を口に運んだ我が親友、綿貫が何とはなしに呟いた。そうだなぁ、と答えつつ氷の入った自分のグラスへ焼酎と炭酸水を注ぐ。 「十一月だし、季節の変わり目だろ。あ、お前も焼酎のお代わり、要る?」  俺の問い掛けに間髪入れず、頼むわ、とグラスを差し出した。まだちょっと残っているけど、まあいいか。 「冷え込み初めの時期って俺、苦手なのよ。何年か前に腰を痛めたのが十一月でさぁ」 「あー、そんなこともあったっけ」  適当な相槌を打ちながら酒を作る。あったっけじゃないよぉ、と綿貫は唇を尖らせた。三十半ばのおっさんがやっても一つも可愛くない。同い歳として、こういう仕草は自重しなきゃな、と密かに決意を固める。 「あの日はさぁ、仕事から帰って体が冷えていたからシャワーを浴びようとしたんだよ。家に入っても震えが止まらないくらい、芯まで冷え切っていた」  勝手に話を始めた。過去に三回くらい聞いているんだがな。 「厚着しろよ、寒いってわかっていただろ」 「衣替えを済ませていなかったせいでコートが着られなかったんだ。とにかくガチガチ歯を鳴らしながら浴室の入口にある段差を当然超えるわな。中に入るんだから。そうしたら足を上げた拍子にビッキぃぃぃンっと腰に激痛が走ったわけ。自分史上、初のぎっくり腰ですよ。あんな大したことの無い動作でもなるのな。しかもそれ以来、癖になっちゃった。俺の腰痛に怯える人生が幕を開けたわけ」 「嫌な開幕だな」 「だから特にこの寒くなり初めた時期は気が重いんだよ。またぎっくりが来るんじゃないかと不安になる」  無言で酒を渡す。サンキュ、と受け取り口を付けた。寒さに怯える割には焼酎をお湯ではなくソーダで割るんだな、とぼんやり思う。冷えるだろ、体。氷もたっぷり入れてあるし。 「体幹とか鍛えるといいって聞くけどね」  俺も酒を飲みながら微妙に知っている情報を伝える。らしいな、とこれまた確信とまではいかない相槌が返ってきた。 「筋トレでもしたら?」 「うーん、でも仕事終わりだと疲れているから気乗りしないんだよね」 「じゃあマッサージ機を買う」 「もう持っている。ただ、ハンドマッサージャーだから使用中は片手が塞がって不便だ。故に使わなくなった」 「じゃあ毎日湯船に浸かれ。しっかり温まって筋肉がほぐれればぎっくり腰にもならんだろ」 「だけどさぁ田中。お前、毎日お湯を張れる? お互い独身の男一人暮らし、家族どころか同棲相手もいないのに毎日湯船へお湯を張るなんて勿体無くない?」  出す案を悉く否定されて若干苛立ちを覚える。こんなおっさん、ぎっくり腰になって然るべきだわ。酔いも手伝って遠慮無くそう言い放とうとしたその時。
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