某所【ぼう-しょ】

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 そんな稲村だから、バツはあっても人気の独身男性だった。  きっと今度は素敵な女性と結ばれる、誰もがそう彼の幸せを願っていたが。  掻っ攫ったのは超ベテランのお局さまとあり、皆が驚愕した。  授かり婚と言ってはいるが、絶対わざと仕組んだんだ。  そう心中はざわついた。  上には上がいるものだと、ハンカチの角っこでも齧っているしかない。  そんな素振りは全然なかったのだ。 「今日は稲村さんの代わりに、補助(サブ)担当の村野さんが行くみたい」  赤坂は村野が普段よく使う社用車の前に待機したので、小森と私もそれに続く。  駐車場には数台の車しか停まっていない、皆外回りに出ているのだろう。 「口じゃCSって言っているけど、お客様満足のために、できることって何だろう」  小森は呟いた。 「そんなの決まっている!」  私と赤坂の声が揃う。 「お客さまの立場になって考えること。  自分だったら嬉しいなって、そう思えるサービスを提供すること」  私が答えると、赤坂も続いた。 「その最たる例がディズニーよね」  抽象的すぎる。  確かにそこから学ぶCSは多く、特に震災時の対応に関しては涙ものだ。  しかしそれをどう我が業界に応用するのか。  建材を扱うメーカー勤務の専門職と、接客を中心とした学生バイトも多いアミューズメント施設(パーク)。  共通点がなさすぎる。  赤坂の意見を否定することはしないが、全力で肯定することもできず私は口を噤んだ。 「ごめんね、お待たせして」  鍵を持つ手を振る村野は、新卒に毛が生えた程度の女性。  つまり私や赤坂の方が年上だ。とはいえここは競争社会、年齢は関係ない。  美人だとか(勿論それだけじゃ意味ないが)、やる気があるとか、実績を残しているとか。  そんな女性は昇級や給料アップが早い。  私は前職が建築業界で、おかげで転職後も経験者ということで給料設定が高い。  前職で彼氏と付き合い周囲に冷やかされて、彼氏の仕事に支障をきたしても嫌だと当時求人の出ていた、近い業界のこの会社に鞍替えした。  そりゃ理想を挙げたらキリがないけど、彼氏は今では現場監督を務めていて、出会った頃より肉体的にもガッチリしている。  私にはこの彼だと思っている。  目を見張るほどのイケメンではないが、気持ち悪くもない。  安全靴を履いていたり、汗だくだったり、自家用車で仮眠を取ったり。  なかなか一般的に思い浮かべられる彼氏像とは程遠いが、私にとっては空気のような存在だ。 「助手席、失礼します」  赤坂が乗り込んだ。
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