私は悪くない

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私たち夫婦は、うまくいっていない。会話が成り立たない。結婚後、子どもが生まれ、慌ただしくしているうちに、共通の趣味だったスキーに行かなくなってからというもの、話が全く噛み合わない。お互いの守備範囲が、スキー以外に重ならないせいだろう。夫が好むものは、私にはさっぱりわからないし、興味も持てない。 どこに出掛けても、必ず喧嘩になってしまう。 私は何も悪くない。頑張っている。 のに、夫は私を認めない。 そのくせ、夫のやり方が不手際すぎるから、本当に許せない。 私の気遣いに気が付かないのもむかつくし、私の言い分をまるで聞いてくれないのも腹が立つ。だから、私はいつも夫を言い負かしてしまう。すると、夫は突然キレて暴力を振るうのだ。 はっきり言えば、離婚すれすれだ。 育児方針も噛み合わない。 私は子どもに中学受験をさせたいのに、夫は渋い顔をする。 そんな風だから、キャンプという新しい共通の趣味ができたら、また家族がひとつになれるかも、と私は期待した。 うちだけでは絶対にいけないが、友人家族と一緒にいくなら、楽しめるだろうし、我が家の経験値も積めるだろう。 更には、ここのお子さんは優秀だから、一緒に受験しようってけしかけたら、うちの子もやる気になるかもしれないし! こちらが何もかもお世話になるというわけにもいかないだろう。できるだけこちらでも準備をした。が、今後続けるかどうかは計りかねたため、最小限の装備にとどめた。あまり出費したくない。 そのかわり、積極的に面倒をみよう。みんなの世話を焼くのは得意だ。 *** キャンプはとても楽しかった。 いつも、夕方になるとバイバイと別れなければならないのが、いつまでも一緒にいられる。子どもたちはそれがたまらなく嬉しいようだった。 一緒に行った家族は、キャンプに慣れているようで、何が起きても動じなかった。色々な便利な道具がでてきて、たちどころに解決してしまうのだった。 そのおかげで、なのか、私達夫婦が喧嘩する機会が一度もなかったのだ。 ただ、楽しかったとはいえ、何もかもお世話になってしまったな、という感情があとを引くのだった。次があれば、もっと役に立って挽回したいものだ。 幸い、子どもたちは 「また行きたい!」 と大騒ぎして、なかなか別れられない様子。 妙子さんが、 「じゃあ、また企画するよ」 と言ってくれた。 家族だけだと、人に話せるような体験がなかなかできない。ゴールデンウィークに何をしたか、みんなに話すネタができてよかった。キャンプブームだし、ネタとしてちょうどいい。 私は、自信があまりない。ゆえに、人に話せるような話題性のある場所にしか行ったことがなかった。はっきり言えば、羨ましがられたい。「いいね」と言ってもらえるかどうか自信がないから、分かりやすい場所を選ぶ。だが、こうして、あまり知られていない場所に連れて行ってもらえるのもいいなと思った。有名じゃなくても、「誘われた」「連れて行ってもらった」と話せるのは、気持ちがいい。「いいところだね」「楽しそう!」と言われればしめたものだし、そうじゃなくても企画したのは私じゃないし、私のせいじゃないから傷つかない。
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