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7
沙綾は青年の手のひらにあるスイッチの緑のボタンに指をかけた。
「私は、守を自由にさせてあげたい」
そして、躊躇わずに緑のボタンを長押しした。
何かが起きる訳でもなく、カチンッと音がしただけだった。
青年が穏やかに言葉を紡ぐ。
「これで守の審判は終わったよ。守は安心して天国に旅立てる」
青年が穏やかに笑みを浮かべるので、沙綾もつられて笑みを浮かべた。
そして青年は何も言わず、スイッチをコートのポケットに入れると、片手を上げて歩き去った。
影を連れて、コートの裾を翻しながら。
守はこの世界からいなくなってしまった。
守の思いも、スイッチを押して消してしまった。
けれど、沙綾に後悔はない。
これから先、守の思いは沙綾が背負って生きていく。
青年とスイッチのおかげで、そう考えることができたから。
見ててよ、守。
これからの私を。
沙綾は公園で、真っ黒な夜空を見上げた。
そして、しっかりとした足取りで一歩、踏み出した。
〈了〉
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