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 沙綾は青年の手のひらにあるスイッチの緑のボタンに指をかけた。 「私は、守を自由にさせてあげたい」  そして、躊躇わずに緑のボタンを長押しした。  何かが起きる訳でもなく、カチンッと音がしただけだった。  青年が穏やかに言葉を紡ぐ。 「これで守の審判は終わったよ。守は安心して天国に旅立てる」  青年が穏やかに笑みを浮かべるので、沙綾もつられて笑みを浮かべた。  そして青年は何も言わず、スイッチをコートのポケットに入れると、片手を上げて歩き去った。  影を連れて、コートの裾を(ひるがえ)しながら。  守はこの世界からいなくなってしまった。  守の思いも、スイッチを押して消してしまった。  けれど、沙綾に後悔はない。  これから先、守の思いは沙綾が背負って生きていく。  青年とスイッチのおかげで、そう考えることができたから。  見ててよ、守。  これからの私を。  沙綾は公園で、真っ黒な夜空を見上げた。  そして、しっかりとした足取りで一歩、踏み出した。 〈了〉
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