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「ねぇ、キミ! 白澤紗綾さん!」
帰り道、公園の前に差し掛かった時だった。
ぼーっと歩いていた沙綾は、突然に声をかけられて咄嗟に反応できなかった。
「そう、そこのあなた! 白澤沙綾さんだよね?」
見知らぬ男性だった。
沙綾よりも三つ年上の守と同じくらいか、それより少し上か、くらいの青年。
サラサラの黒髪、同じくらい黒い切れ長の瞳。
着丈の長いロングのトレンチコートを羽織っている。長身の青年にはよく似合っているが、青年が纏う雰囲気は氷のように冷たい気がした。
背筋がぞわりとしたのは、見知らぬ男性に自分の名前を呼ばれたからだけではないだろう。
「あれ? もしかして、警戒してる? あ、大丈夫、大丈夫。怪しい者じゃないから」
自分で言う事ほど、信用ならないものはない。
沙綾は、二、三歩後退った。
駆け出そうとして、腕を掴まれた。
悲鳴を上げそうになり、青年に手で口を塞がれた。
「驚かせてごめん。ほんとに怪しい者じゃないんだ。オレは守に頼まれてキミに伝言持ってきたんだよ」
沙綾に悲鳴を上げさせないように、口元をそっと押さえた青年の指は氷のようにとても冷たい。
「いいかい? 聞いてくれ。オレはキミに危害は加えない。守の伝言を伝えたら、オレは消える。そして君の前に二度と姿を現さない、ここまでオーケー?」
胡散臭くはあったが、沙綾は青年の話し方が落ち着いていたし、危害を加えることもなさそうだと判断して、コク、コクと頷いた。
青年は小さく吐息をつくと、沙綾の口元から手を離した。
「まず、オレのことは話せない。だから、事実だけ話す、いいね?」
尋ねてはいるけれど、有無を言わせない語調だった。
少しだけ緊張している沙綾に、青年は微笑んだ。
「守が、キミを心配している」
青年の言葉に沙綾の心臓が、ドキンと跳ね上がるように鼓動した。
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