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目を覚ますと、イーサンは魔王のベッドの中にいた。魔王の使用している掛け布団は、良い匂いがして、心地よい。
イーサンは、同じベッド上で横になっている魔王が、何者かと話しているのに気づく。体の向きを変えてチラッと見ると、そこにいたのはエレンとゴンザレスだった。
「あ、起きた! まったく、困った人なんだから」とエレンが微笑み、「世話の焼ける勇者様だぜ」とゴンザレスが両手を広げてため息をつく。
「どういうことだ?」と困惑するイーサンを見て、エレンとゴンザレスが吹き出して笑った。
イーサンは真横で見つめてくる魔王に嫌悪感を抱きつつ、ベッドから脱出した。
話を聞くと、エレンとゴンザレスはイーサンの後を追って、魔王城の最上階まで辿り着いたらしい。
二人は、周囲を警戒しながら通路を突き進んだ。すると、最奥のドアから漏れる光が見えてきた。近づいていくと、開けっ放しのドア付近で倒れているイーサンと、部屋の中央にあるベッドで安静にしている魔王らしき者の姿が見えたのだという。
「で、俺がイーサンをベッドの所まで担いで、ここに来る直前に村のドラッグストアで買った万能薬を二人に飲ませたってわけだ。がははっ!」
ゴンザレスが豪快に笑う。
「なるほど。僕に飲ませるために買ってきてくれたんだね。でも、なんで魔王にも飲ませたんだ? 助ける必要なんてないのに。だって悪だぞ、悪。隙だらけなんだから、やっつけちゃえば良かったのに」
イーサンが、そう言った直後、ゴンザレスの右拳がイーサンの顎を直撃した。ほぼ同時に、エレンの魔法の杖がイーサンの右脛にゴツン! と当たる。
「痛えな!」
勇者は信じられないといった表情で二人の顔を見た。
すかさず、魔王が「まあまあ」と仲裁に入る。
「ばっっっか野郎! 敵も味方も関係ねぇだろぅ! イーサン、アンタは思いやりの心を無くしちまったのか!」
ゴンザレスが叫び、そこでイーサンはハッとして「そうか。悪を力でねじ伏せるだけが手段じゃないんだな...。思いやりで悪を包み込み、考えを改めさせ、共存するという方法もあるんだ。『優しさ』という強力な魔法が僕らには…」と呟いた。
何やら深く考え込んでいる勇者を横目で見ながら、エレンとゴンザレスはアイコンタクトをしながら頷き、魔王に水分補給と充分な睡眠の重要性、栄養たっぷりの食事の作り方などの健康情報を教えている。
魔王は熱心に「ふむふむ」と耳を傾け、頷く。魔王城内は和やかな雰囲気が充満しており、一同は戦意喪失していた。
「お陰様で助かったぜ。優しさっていうのは嬉しいものだな。心と体で理解したよ。君たち、ありがとう!」
魔王は心を震わせながら、勇者たちを見送った。
(了)
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