第壱章 花ノ宮女学院

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もうすでに父兄らしき人や、案内係の生徒の姿が見られた。 学院説明会では、2年、3年が案内係などを務め、その他の学年が通常授業の日だった。 しばらくまわっていると、チャイムが鳴った。10時の鐘である。 「いけない!史靖様を待たせてしまうわ!」 美夜ノが速歩きで第二玄関まで歩いていく。私も、急いでその後を追いかけた。 第二玄関についたが、人は誰もいない。 「史靖様になにかあったのかしら・・・。」 不安そうな美夜ノは、赤いカーペットの第二玄関をウロウロと落ち着きなくあるき回っている。 「大丈夫よ。電車が遅れたのよ。きっと。」 その場しのぎに過ぎない嘘を付きながら、私も時計を眺めていた。 時計の針が2を指した。 しばらくすると玄関に軍服姿の人が二人現れた。 「美夜ノさん!!遅れて済まないね。」 「史靖様!心配いたしました!」 二人が手を取り合うのを見て微笑ましく思っていると、史靖の後ろの男性と目があった。 二人の視線に気がついたのか、史靖が美夜ノの手を離すとこちらに歩み寄ってきていった。 「こいつは華乃院一。僕の同僚だよ。」 一、と呼ばれた青年は、茶色のかかった短髪でスラッとした上品な印象だった。が、その瞳は切れ長目で冷たく光っていた。 「ご紹介に預かりました、華乃院一です。」 それだけいうとすっと視線を私から反らした。 「まったく。人嫌いは変わらず、ってとこか。ごめんな、櫻子さん。こいつ人当たりは悪そうに見えるけどいいやつだ。今日はたまたまこの後の予定も一緒だから連れてきたんだ。急いでいたから軍服のままだけどいいよね。」 史靖はバシッと一の背を叩くと 「じゃあ、軍服男が二人、っていうのも目立つし。一も妹がいただろ。その見学ついでに櫻子さんに案内してもらえよ。じゃあね、櫻子さん。11時になったらここで集合で。」 そう言うと、美夜ノと史靖はお花畑でも歩いているかのような朗らかな足取りで校内へと消えていった。 私達は顔を見合わせていたが、自己紹介するのを忘れていた。 「紅ノ蔵櫻子と申します。以後お見知り置きください。」 顔を上げると目の前に立っていた彼は、大きく目を開いた。が、それも一瞬のことだった。またあの怜悧な瞳に変わって、 「紅ノ蔵さん。宜しくお願いします。」 それだけいうと歩き出した。 そっけないし感じ悪い。そう思った。 たまに私が一方的に「ここは講堂です。ホールです。」なんて紹介し、それに頷くだけ。気まずいことこの上ない。 まれに他の生徒が一の方を見て、 「将校様かしら・・。」 などとため息をつくくらいで変わったこともない。悔しいことに一には人を魅了させる美しい容姿と雰囲気があった。
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