第壱章 花ノ宮女学院

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第壱章 花ノ宮女学院

 紅葉が地に落ちて、木枯らしが青年のマントを揺らした。  若葉が風に揺れて、そよ風が少女の髪を弄んだ。  桜が散って、春一番は涙を流す少女と歯を食いしばる青年の間をくぐり抜けた。  雪が降って、吹雪が小道をかけていく少女とあたりに何かを落としたかのように歩く青年を引き付けるように雪を巻き上げた。 これは、大正時代に起きた二人の男女の恋の物語____。    「ここ、花ノ宮女学院は古くは幕府の御威光光る時代から続いてきた藩校を前身としておりまして、皆さんは名誉ある第150期生です。 いいですか、今日は新入生の父兄様方が学院見学にいらっしゃいます。皆様は本学院の説明をして差し上げてください。宜しいですか?では、皆さん持ち場にお戻りになってください。」 講堂の椅子に腰掛け、はい、おしとやかに返事する2年生を生徒指導の青山は見回した。 今日は新入生の父兄が学院見学に来る日である。 規律、礼儀、心の美しさを第一とする青山千代は、最前列右端にいる少女を見た。 紅ノ蔵(こうのくら)桜子。 おそらく学院一の名門華族、紅ノ蔵家の一人娘で、学年首席の成績、凍てつくような美貌を持つ、完璧少女だ。それは、14歳にしては気味悪いものだった。 青山は一人遅れて席を立とうとする紅ノ蔵に声をかけた。 「紅ノ蔵さん。」 「何でしょうか、青山先生。」 ふわっと音がしそうな上品な仕草で振り返る彼女に青山は言いにくそうに伝えた。 「申し訳ないのですが、紅ノ蔵さん、あなたはご案内ではなくて見回りに変更してもらってもよろしい?」 「異論はございませんわ。」 そっと目を伏せ、袴の裾をそっと掴み頭を下げると行動を出ていった。 残された青山は、あっけにとられた。睨むような目つきで青山のことを見るはずの紅ノ蔵が黙って従順に従ったから。 その時だった。不思議に思う青山の思考を遮るかのようにチャイムが鳴った。青山は気を取り直し、監督場所に戻った。
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