<3・事実。>

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「私はお母さんたちと比べて頭の出来が良くないんだからしょうがないでしょ!そういうのはまるっとゆいとに任せておいてよ、ね!」 「姉貴、それ自慢げに言うことじゃないから」  小学六年生の弟は、ジト目になって言う。低学年に間違えられるほどチビのくせに、昔から妙に賢くて毒舌なのがゆいとだった。少しは姉を敬う気持ちを思い出してほしいものである。 「マジで姉貴、高校はスポーツ推薦とか探した方がいいんじゃないの?頭がくるくるパーでも運動神経さえよければ入れるところ探したら?」  この有様だ。  ゆいなはぷーっと頬を膨らませて、弟の頬を箸でつっついた。 「うるさい、お前は正直に言い過ぎだ!私もそうした方がいいとは思ってたけど!」 「認めるんかい」 「ゆいな、お箸でそういうことしないの、品がないわね。さっさとご飯食べちゃいなさいよ」 「はぁい」  こういう時、おっとりとした父は基本的に何も言わない。ニコニコしながらゆいなたちのやり取りを見ていることが大半だ。それを、母にはよく“あなたは子供達に甘すぎるのよ!”と叱られている。まあ、我が家は厳しい母と穏やかな父、でバランスが取れている一家だとは思うけれど。  そんな父がだ。今日はいつもと違って、何やら真剣な顔をして黙り込んでいるではないか。どうしたんだろう、と思っていると。 「……不謹慎なのは承知だが」  彼はお味噌汁を一口飲むと、唐揚げの乗ったお皿をじっと見つめて言ったのだった。 「実はゆいなが聴いたような怪談を、父さんも聞いたことがあってな」 「え、そうなの!?」 「ああ。でもって……いじめがあったって話は本当だと思う。父さんよりも上の代なんだけどな」  そういえば、とゆいなは目を見開く。父は現在三十八歳。二十数年前に、自分と同じ中学校を卒業していたはずである。  ちなみに、母は現在四十二歳で、我が家は母の方が少し年上であったりする。彼女は大人になってからこの町にやってきたので、もっと遠くの学校の出身だったはずだが。 「今から三十年くらい前っていうのは間違ってないと思う。父さんが中学生になった時、そう……入学してそうそう、真っ先に先生達に“いじめだけは絶対にダメ”みたいに指導されたのが印象的でな。確かにいじめは人としてやっちゃいけないことなんだが、先生達の言い方はどっちかというと……怯えてるようにも見えたものだから不思議だったんだ」 「怯えてる?そりゃ、いじめがありましたーなんて知られたら学校の名誉に関わるだろうけど」 「それもあるだろうけど、それだけじゃない。先輩たちから噂で聞いたら、本当に過去凄惨ないじめがあって、生徒が複数人死んでるんだって。それも、ほぼ心中したみたいな形で自殺したと」  クラス全体でいじめがあったらしいんだ、と父。
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