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「先輩も人伝に聞いた話だろうし、どこまで正確かわからないんだけどな。なんか、クラスの中で一人“狼”を決めて、その狼をみんなでいじめるというゲームをしていたらしいんだ。リーダー格の、女王様みたいな女の子がいて、その子が全てを仕切ってたらしい。彼女の機嫌を損ねたり、ゲームに反対した子は問答無用で狼にされる。で、狼にされた子は……“許して”貰えるまで、何をされても我慢しなきゃいけない、と」
何をされても。
妙に強調するような父の言い方に、ゆいなは眉をひそめる。
「相当ヤバイこと、してたんだ?」
「ゆいとの前では話したくないようなことまで、な。もちろん、噂だからどこまで本当かはわからない。ただ正直、それを聞いた父さんは思ったよ。それが犯罪として立件されないなんておかしい、ってね。実際、リーダーの女の子は誕生日が遅かったせいで、子供達が死んだ時十四歳にもなっていなくて……ほとんど何のお咎めもなしに、あっさり転校していったらしい。ゆいなが聴いた話の通りだな」
うわあ、と思わず舌を出してしまうゆいな。小学生の弟に聞かせたくないということは、多分性的ないじめもあったということだろう。
気持ち悪い。その一言に尽きる。
「いじめなんて、マジでサイテーだよね。気に入らない子とか嫌いな子っていうのもクラスにいるのはわかるけどさ。その子を集団でいじめて、ウサを晴らそうなんて間違ってるよ。ましてや、ゲーム感覚で虐めるなんて神経疑う。私だったら、その加害者ボコボコにしてるわ」
「姉貴にボコられたら相手が死ぬと思うけど、まあ気持ちはわかる」
大皿から唐揚げをよそいつつ、弟が言った。
「まあ、いっそ暴力で解決できたら話は速いんだけど、そう簡単にはいかないもんだよ。実際、手を出したらこっちが傷害罪問われかねないし。それに……クラス全体がその加害者の思想に染まってしまっていたとしたら、加害者がそれこそ大怪我して入院してクラスからいなくなっても、果たしてそれで健全化が図られるかどうか」
「どういうことよ?加害者いなくなったならもういじめゲームなんかしなくてもよくなるじゃん」
「入院していても、退院したら戻ってくるでしょ?その時、女王様に評価されたい、評価されることで安定したポジションを取っておきたいと思う人間はきっと出てくる。そういう奴は、女王様の命令がなくてもゲームを続行するんじゃないかな」
何より、と彼はため息をついた。
「狼を選んで、その一人を虐めるってことは。……狼にされていない人間は、一人がいじめられている間安全ってことになる。それなら身を護るため、誰かをずっと狼に置いておきたい……と思うのは自然な流れ。自分が逃れるために、いじめをっ見て見ぬふりする段階を通り越して、一人にずーっと狼のポジションに押し付け続けるんだ。そのために虐める。前に女王様がやっていたことを模倣する。精神的な支配って、そんくらい強いもんだよ。似たようなこと、幼稚園児から社会人まで起きるんだからさ」
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