<1・落下。>

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 ***  時は、少しだけ遡ることとなる。  前の日の夕方のこと。ゆいなは二人の友人に対して土下座を決めていた。それも、くるっと一回転しての、見事なローリング土下座である。 「見るがいい!この素晴らしい土下座スキルを!略してドゲスキ!」 「略さんでええ!そして毎回なんやのその無駄すぎる運動神経は!」  そんなゆいなの頭をぺしりと叩いたのは――顔を上げてないから見えないが、その特徴的な関西弁からして黄島沙穂(きじまさほ)の方だろう。幼稚園から中学生になった現在まで、幼馴染の一人である。ちなみに、現在ゆいなともう一人の幼馴染がいるのは、この沙穂の家だった。  将来の目標はお笑い芸人だと豪語するムードメーカー。ちなみに本当に関西圏の出身などではなく、“お笑い芸人を目指すなら関西弁はマスターせなあかん!”ということで幼稚園の頃から関西弁を真似して喋っているというだけの少女である。多少おかしなところもあるが、最近はだいぶ板についてきているような気がする。さすがに十年以上扱っていれば慣れもするのだろう。  なお、いかにも三枚目系のキャラだが、彼女はゆいなよりだいぶ成績が良い。そのため、現在土下座スキルを実行しているわけだが。 「うちもあんたがどんどん心配になってきてるところや。体育の授業では無双するくせに、なんで勉強になった途端知能レベルが駄々下がりすんの?ほんまに、脳みそまで筋肉なんとちゃうの、ゆいなは」 「流れるような罵倒どうも!しょうがないじゃん、勉強苦手なんだからあ!」  がばり、と顔を上げる私。目の前には、ドン引きしているおかっぱ頭こと沙穂の顔がある。 「沙穂ちゃんよ、よく考えて見たまえ。この私が楽しく勉強している姿を!それで中間テストで国語で百点を取る姿を!どうだ、さぶいぼが立ってきたことであろう!?」 「……あ、確かに。なんか鳥肌」 「でしょーよ!つまりそれくらい不可能なの!無理なの!私が真面目に勉強した暁には、空から雨どころか槍でも降ってくるのは確定なんだから!!」 「そこまで言う!?」 「そこまで言うの、だからお願い!!」  ずささささささささ、とゆいなは沙穂に詰め寄り、彼女を壁まで追い詰めるとドンっとやった。色気もへったくれもない壁ドンである。 「お願い沙穂ちゃん。私の代わりに宿題とテストやって!(はぁと)」 「はぁと、じゃねえわ!勉強教えてやなくて、宿題とテスト代わりにやれって人として終わっとるで!?ええ加減にせえよ!?」 「ぶっほ」  さすがに彼女も堪忍袋の緒が切れたらしい。次の瞬間、見事な蹴りが炸裂し、ゆいなの体は反対側の壁まで吹っ飛ばされたのだった。まるでマンガのようなパワーである。そういえば、彼女もスポーツテストの結果は総合A判定だったっけ――目を回しながら、ゆいなはそんなことを思ったのだった。  話の流れは単純明快。
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