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なお、顔がそっくりなので同じ髪型をされると見分けがつかない。最近、長兄の英は眼鏡をかけるようになったし、貞はスポーツ刈りにするようになったので少しやかりやすくなったが。
「ああ、うん……おはよ、ゆいな」
返事をしたのは三人の中でちょこっとだけ背が小さい、末弟の京である。
「見ての通り、キャットファイトが繰り広げられている。僕達男は怖くて近寄れない。助けて」
「情な……。いや、確かにマジギレした沙穂ほど怖いものはないけど」
彼らは少し家が離れているが、どうにか学校に来ることができたらしい。父親が車で仕事に出かけるので、ついでに送ってもらったのかもしれなかった。
ゆいなは教室を覗き込む。部屋のど真ん中で言い争っているのは、案の定沙穂とは犬猿の仲の少女だった。
灰田美冬。長い黒髪をお下げにし、分厚い牛乳瓶のような眼鏡をかけた少女だ。彼女は典型的な“文学少女”であり、オカルトマニアだった。オカルトやホラーはゆいなも沙穂も好きだが、それでも彼女とはあまり話したことがない。話さないようにしている、とでも言うべきか。
理由は単純明快。――彼女の知識と認識が偏りすぎていて、ついていけなくなるからである。
彼女は“自称霊能力者”だった。この学校には昔から邪悪な怨霊が住んでいて、自分はそれを退治するためにこの学校に来た――とかなんとか。ようはそういう話を平気で人にしてしまって、ドン引きされるようなタイプなのだった。
会話の内容からなんとなく想像はつく。粗方また、怨霊の話でもして人を怖がらせて沙穂の逆鱗に触れたのだろう。
「うう、ぐすっ……」
よく見ると、沙穂の後ろには少女が二人。まるで小学生のように小柄な少女とのっぽな少女。ツインテールの小さな子(泣いてるのはこっちだ)が茶川湯子。その背中を支えているノッポなショートカットの少女が虹村エリカだろう。
そしてよく見ると教室の離れたところにぽつぽつと座っている少年少女たち。その中に、亞音の姿もあるではないか。完全に吾関せずの姿勢である。
――もう、止めるなりなんなりせんか、あの馬鹿!
まったくもう。
ゆいなは呆れ果てて教室に踏み込んだのだった。
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