21人が本棚に入れています
本棚に追加
ゆいなのことをどうこう言うが、実際沙穂も結構正義感が強いタイプだと知っている。彼女からすれば、灰田美冬が茶川湯子を虐めているようにしか見えなかったのだろう。
「心外ね。わたしは、別に虐めたいと思ったわけじゃないし、怖がらせたかったわけでもないわ。勝手にそっちが怖がっただけじゃない」
そして、美冬も美冬で自分の過ちを認める気はないらしい。ふんっ、と鼻を鳴らして反論する。
「わたしは昔からみんなに忠告してきたはずよ?この学校には、とてつもない力が封印されている。その怨霊からみんなを守るためにわたしはここにいるんだって。わたし、ずーっとその力に呼びかけ続けてきたの。恨みをなくしてください、浄化して天国にいってくださいって。わたしの説得をきいてくれていたから、怨霊は今日まで暴れだすことがなく、みんなが平和に暮らせていたのよ。むしろ感謝してほしいくらいね」
「また出たわ、オカルト被れ。自分、そんなに特別な人間になりたいんか?あんたをほんまの霊能力者だと信じてるやつなんか誰もおらへんで」
「まあそれも仕方ないでしょうね。あんた達凡人には幽霊も神様も妖怪も何一つ見えないんだもの。凡人は、目に見えないものを信じる勇気なんてない。臆病だもの、しょうがないことだと割り切ってるわ」
「凡人凡人って馬鹿にしとるんか!?」
「まあまあまあまあ、落ち着いて沙穂」
確かに、この調子ではろくに会話にならないだろう。拳を振り上げる沙穂を、どうにか宥めるゆいな。向こうの方で、“やっぱり女こええ”と三兄弟がお互いに言い合っているのが見える。お前たちは仲裁を人に任せてないで少しは助けたらどうだと言いたい。
「えっと、灰田さん」
とりあえず、ゆいなは美冬に話を聞いてみることにした。正直、自分も灰田美冬の霊能力なんて信じてはいない。彼女が特別なものになりたくて、自己顕示欲ゆえ妄想に浸ってるだけだとは思っている。
それでもだ。こういうトラブルが起きた時、彼女の言葉を一概に否定するのがまずいということくらいわかっている。お前は違う、それは嘘だ、と言われれば言われるほど美冬も意固地になるだろう。本物の霊能者だろうとそうでなかろうと、誰かに認めて欲しい気持ちがあるからわざわざ人に話すというのも間違いないことだろうから。
「その、訊きたいんだけどさ。確かに、前々から灰田さんは、この学校に凄いおばけ?神様?か何かが封印されてるみたいなこと言ってたのは知ってるよ?でも、なんでそれで“今日みんな死ぬ”ってことになるの?灰田さんが、みんなを守ってくれてたんじゃないの?」
それに。さっきエリカがはっきりと言っていた。彼女が言う怨霊とは“ニコさん”という名前なのだと。
最初のコメントを投稿しよう!