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それはごくごく最近、亞音から聴いたばかりの都市伝説の名前だ。そして、その怪異によるものかもしれない死体が隣町で発見されたばぁりである。
美冬の言葉をまるっと信じることはできない。それでも、気にならないと言えば嘘になるわけで。
「……そうね。凡人には、もう少し詳しく、噛み砕いて説明しないとわからないのでしょうね」
はあ、と深々とため息をつく美冬。また凡人って言いおった、と沙穂が呟いている。確かにいちいち鼻につくのは確かだが、今はスルーしておいた方がいいだろう。
「正直なところ。この学校に“何”が封印されているのか、わたしも分かっていたわけじゃないの。とてつもない力があるのは知っていたけれど、その正体までは読めなかった」
「ほう、大した霊能力やんなあ?」
「お褒めに預かり光栄ね黄島さん。でもね、人間に“わかる”ことなんてそもそも限られたことでしかないって気づいてる?確か貴女たち、クトゥルフ神話TRPGとか……海外で人気のSCPとか、ああいうもの好きだったでしょう?時々、お喋りの中で出てきていることには気づいていたわ。わたしも、ああいう発想は興味があるし……現実的に考えても、結構的を射ていると思うしね」
「クトゥルフ?どういうこと?」
「宇宙的脅威を人間が推しはかるのは不可能、ってことだろうな」
口を挟んだのは、離れた席で我関せずと座っていた亞音だ。
「この場合は、クトゥルフよりSCPの方が説明しやすいかもしれない。SCPってやつは、基本的に“何でそうなったかわからないけれど、とにかく不思議な物体や現象”を言うものだろう?バケモノが這い出してくる赤いプールは、水の成分が何でできているかもわからないし、ろくな深さがあるとも思えないのに怪物が出てくる。どんな薬でも治せる万能薬は現代の医療の領域を超えているし、永遠に続く階段なんてのはもうわかりやすく原理が不明だ」
「まあ、そういうもんだよね。原理は証明されないけど、ただ不思議としてそこにある、っていうか」
海外のサイトが日本語訳されて広まっているので、そのへんのものはゆいなも知っている。謎空間に引きずり込んでくる、体が腐ったおじいさんとか怖かったなあ、と思った記憶もある。
そしてなんとなくわかった気がした。つまり。
「神様、妖怪、悪霊。……不思議な、オバケじみたものを人はそう呼ぶけど……実際その正体が何なのかわからない、ってことであってる?人間の技術では、そに後から名前をつけるしかできない、みたいな」
ゆいなの言葉に、大体その通りだ、と頷く亞音。
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