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「この学校で首吊り自殺した生徒がいたとする。それから学校で、首吊り自殺が多発したとする。……そうなると、多くの人はなんとなく“死んだ生徒の呪い”だと思うだろう?でも、じゃあ本当にそれが死んだ生徒の呪いだと誰が証明する?普通の人間は幽霊なんか見えない。それこそ首吊って死んだ生徒の幽霊っぽいものが出現したところで、そいつが本当に“そのもの”だなんて誰が確定できるんだ。何かが真似事をしているのかもしれない、依り代を動かしてるのかもしれない、あるいは……生きた人間が幽霊のふりしてるだけかもしれない」
「あー、確かにそういう可能性もある……」
「それでも噂は流れるし、怪談はできる。結局、神様も悪霊も人が作るんだ。人が“そうであってほしい”と思った都合の良い考え方が、あらゆる怪異を作り上げる。……この学校に、謎の力の気配を感じた、そんな灰田さんの話が正しかったとして。それが“何”であるのかは、結局感知した人が好きに解釈するしかない。だってどう転んでも、証拠なんて提出できないのだから」
「ほえ……」
そういうものなのか、とゆいなはやや混乱しながらも思った。でも、納得したところもある。
怪異を怪異たらしめるのは結局、それを観測した人間。その人物がオバケだと言えばオバケになるし、自然現象だと思えば自然現象になる、ただそれだけのことなのだと。
「説明が早くて助かるわ」
肩をすくめる美冬。
「その正体を、わたしは“何か”だと定義したくなかった。だから、幽霊かもしれない、悪魔かもしれない、神様かもしれない……あらゆる可能性を視野に入れて監視を続けてきたの。確信していたのは一つだけ。その存在が、この学校を恨んでいるだろうということのみ」
「どうしてそう思うの?」
「本来の姿を失って、この世に留め置かれているのが明らかだったからよ。ようは、手足をもがれてがんじがらめに鎖で縛りつけられているようなもの。恨んでないはずがない。……わたしはその存在に対して呼びかけ続けた。どうにか、恨みを浄化して自力で元の世界に帰ってくれるようにと訴え続けたわ。力の大きさからして、恨みを持ったまま解き放たれたら恐ろしいことになるのは明白だったもの」
「そこまではわかったけど……なんでそれが“ニコさん”って名前だと?最近流行してる都市伝説と関係があるの?」
「まあね」
ゆいなの問いに、美冬は笑みを深くした。
「この学校に来てからずっと、その正体がわからなくて困っていたんだけど。段々と、封印が緩んできている気配は感じていたわ。正直焦っていた。そんな時耳にしたのよ、ニコさんの噂をね」
確信したわ、と美冬が言う。
「あれは、怪異の影響を受けて……誰かが意図的に流した話だとね」
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