<1・落下。>

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 ゆいなは成績は悪い。とてつもなく悪い。中学二年生の段階で(実際義務教育で留年はほぼないはずだが)、留年を覚悟したくなるくらいには悪いのだ。今まで成績表で、五段階中五の評価を貰ったことがあるのが体育だけ、他は1か2という時点でお察しなのである。  今は一月末。来月の半ばには学年末テストがあることが確定しているのだが――このままだと、凄惨極まりない点数を取るのが目に見えていた。しかも、ものすごく面倒くさい宿題が出ていて、それも提出できるか怪しい状況。このままでは本当に進級が危ぶまれるので、どうにか助けてもらおうと幼馴染たちにヘルプを要求したのだった。  しかし、面倒な宿題こと作文はいつまで経っても進まない。  そして数学の勉強を教えて貰おうと思ったら、五分でゆいなが夢の世界に旅立った。自分でもなんとかせねばとわかっているが、公式を聞いた途端体が拒否反応を起こしてしまったのである。  それで仕方なく、宿題を代理でやってくれ&テストに替え玉で出てくれと頭を下げた次第だが。 「替え玉でテストなんかできるわけないやろ!うちらも自分のテスト受けるんやから!」  ごらぁ!と吠える沙穂。 「大体、そんな悪事に手を貸してみい、うちらも成績下げられたらどないすんの!?無理や無理、いくら土下座されても却下だっちゅうねん!!」 「そんなあああ……!」 「駄目なもんや駄目!どうしても勉強できひんなら諦めえ!」 「ぶええええええええええ!!」  ゆいなは盛大に泣き真似をする。相変らずずけずけと厳しいことを言うお人である。ちらり、さっきからテーブルの前に座ったまま我関せずを決め込んでいるもう一人に声をかけた。 「亞音(あおん)さーん!ねえ、可哀想な私を助けてよー!」  この場にいるもう一人の幼馴染――藤森亞音(ふじもりあおん)。少し長めの黒髪が美しい美少年は、クールにゆいなを一瞥すると言った。 「無理」  にべもない。  あまりの即答ぶりに、ゆいなはその場でずり落ちた。 「前々から言ってるけれど、ゆいな。沙穂は何も間違ったことは言ってない。作文はまだ代わりに書くこともできなくはないけれど、物理的な意味でテストを肩代わりすることはできない。俺も沙穂も、分身する術なんか持っていないんだから」  それに、と彼は続ける。 「前々から俺は言ってる。人に何かを頼んでもいいけれど、相手に迷惑をかけるようなことはいけない。沙穂がもしゆいなの身代わり受験をしたら、沙穂が先生に叱られるだけでは済まない。友達が、自分のせいで酷い目に遭っても本当にいいのか」 「うぐぐぐぐ……」 「作文もそうだ。筆跡というのは馬鹿にならない。ゆいなの字は独特だからそれを真似して書くのはかなり難しい。バレたらやっぱり成績に傷がつくだけでは済まない。……ゆいなは人に迷惑をかけても平気な人間なのか。違うだろう」 「あぐぐぐぐぐぐぐぐ……」
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