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出席を取っている間に誰か来ないかと思ったが、案の定と言うべきかこれ以上生徒は出席してこないようだった。
窓の外は、もはや吹雪に近い有様と化している。教室に暖房がついていて本当に良かったと思うゆいなである。
「来ているのは十一人だけですか」
うーん、と山吹先生は困ったように頬を掻いた。
「心配ね。何人かは欠席の連絡が入ってるんだけど、一部の人はその連絡もないんです。どこかの道で立ち往生していたり、雪の中で迷子になっていたりしないといいんだけど。なんせ、こんなに雪が降ったことなんてここ数十年なかったことですから。皆さん経験もないでしょう?」
「そうですね。ていうか、さっきからスマホの電波もちょっと弱くなってる気がします。電話が繋がらないのはそのせいかも。今はもう、家に家電ないって人も珍しくないし」
「吹雪のせいかしら。……白樺さん、もし誰かからメールとかLINEとかが来たら教えてくださいね」
「はい」
スマホを見つつ、頷くゆいな。いつもならフルに立ってるはずの電波が、今日は半分になったりゼロになったりを繰り返している。霊障なんてものじゃないといいけど――と少し縁起が悪いことを思ってしまった。100%、さっきの美冬の話のせいだ。
「先生達、来てるんですかあ?」
ぽっちゃりおっとり系女子、木肌真梨衣がひらひらと手を上げて言う。のんびりした性格で、さっきの沙穂と美冬の言い争いも静観していた一人だ。
「それが、先生たちも全員来られてなくて」
眉をひそめる山吹先生。
「正直、今日は休校にしましょうかって校長先生が言ってます。問題はこの調子だと、校舎を出るのも危ないってことだけど。雪がもう少し収まってきたら、皆さん帰宅していいですよ」
それを聴いて、おおおおやったああ!とわかりやすく三つ子が両手を挙げて万歳した。休校=家で好きなだけ遊んでいいという認識らしい。ゆいなもそうしたいのはやまやまだったが。
「その代わり、皆さんにはたっぷり宿題を出しますからね」
「まぢで!?」
「うっそん!」
「ああああああああ」
――やっぱりい!!
そりゃそうなるだろうな、としか言いようがない。何もない、本当にただ遊んでいい“自習”にしてはもらえないのだろうか。ただでさえゆいなはテスト勉強もろくに進んでいないし、なんなら作文だって終わっていなくて喘いでいるのだから。
「先生」
その時だ。ふと、美冬が手を挙げて言ったのだった。
「そろそろ、来ます。時間になったみたい」
「え」
何のこと?と山吹先生が首を傾げる。しかし、彼女が気付くよりも先に――ゆいな達が気付いていた。
否、見えていたというべきだろうか。何故ならば。
「せ、先生、うしろ……」
この教室の中で唯一、先生だけが黒板を背にして立っている。自分達には、彼女の後ろの光景がありのまま見えていたのだから。
「え?」
振り返る山吹先生。その喉が、小さな悲鳴を絞り出したのを自分たちは聴いていた。
それもそうだろう。
黒板の前で――ふわりと浮かび上がったチョークが、勝手に文字を書き始めていたのだから。
赤いチョークは、以下の文章を示した。
『さあ、はじまり、はじまり。ニコさんの復讐のはじまり。
みんなが死んじゃう、パーティの始まり』
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