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正確には、理解を拒否している。
「だ」
引きつった声で、山吹先生が言った。
「だ、誰かの……悪戯、ですか?ニコさん、なんて……」
「これが悪戯に見えますか」
亞音が、いつになく厳しい声で言う。
「だとしたら、このクラスには凄いマジシャンか、あるいはサイキッカーがいるということになりますが。……先生、ニコさん、というのもが何なのかご存知ですか?」
「い、いいえ……」
「ニコさん、という怪異です。都市伝説というか、学校の怪談というか。最近この学校でも、それからネットの掲示板とかSNSでも流行しているんですよ」
こんな時、冷静な人間が一人でもいるのは助かる。亞音も動揺していたはずだが、彼は落ち着いて先生に怪談を簡単に説明した。
どうやらそのニコさん、もしくはニコさん、を騙る人間が何かを引き起こそうとしているらしいと。隣の町でニコさんの手によるものと思しき死体が出たというニュースがあり、みんなが怖がっていたということを。
「今の現象。俺は、手品には見えませんでした」
険しい顔で告げる亞音。
「何か超常的な力が働いていることは疑いようがないと思います。勿論、まだ手品の可能性を完全には否定できませんし……仮に超能力だとしても、それが生きた人間の仕業か、怪異かは断定できませんが」
「し、信じられません、そんなこと……」
「信じられなくても、両方あり得ると思って行動するのが先生の役目だと思います。どうか落ち着いてください。とりあえず、他の先生にも相談するのがいいと思います。もしニコさん、あるいはニコさんを名乗る何者かの仕業であるのなら……この学校全体が無関係だとは思えません」
「そ、そうね。そうですね。わかりました」
真っ青な顔だったが、パニックになっていないだけまだ山吹先生は落ち着いているだろう。ゆいなはと言えば、驚きすぎて声も出ない状態だった。
人間、あまりにもびっくりすると悲鳴さえも出ないものなのだ。悲鳴を上げる、絶叫するというのはつまり、ある程度現実を受け入れたからこそ恐怖するものなのだから。
「な、なになに?何がどうなったの?」
まだぽかん、としている様子の真梨衣。こっそり持ってきたらしきポッキーの箱を開けている。――うちの学校は不要物の持ち込み云々、というのが非常に緩いことでは知られているが。ホームルームの時間に当たり前のようにお菓子を食べているのはいかがなものか。
「ニコさん?本当におばけが出たってこと?やだ、あたしおばけ見ちゃったあ?すっご!」
「な、何でそんなにあっけらかんとしてるの……?」
かたかたかた、と小刻みに体を震わせているのは湯子だ。
「本当だったんだ。は、灰田さんが言ったことは本当だったんだ……!これから、わ、私達、みみみ、みんなニコさんに、殺され……っ」
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