<2・怪談。>

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「ただの都市伝説に、細かい整合性や物語性まで期待するな。この霊能者が寺院関係者だったかもわかっていないんだしな。それにこの話はもう少し続きがある」  亞音はノートに、フランス人形のような絵を描き始めた。今度はさっきの棒人間と魔法陣よりだいぶ丁寧な出来だ。もとより、彼は芸術系の成績も良い人間だった。画伯、なんて揶揄されるゆいなとは比較にならないくらい真っ当な絵を描けることで有名である。  と、そういうことを自分で言うのもちょっと空しくはなってくるけれども。 「こんなかんじの、フランス人形にな。怨念を封じ込めて、俺達の学校のどこかにしまってあるんだそうだ。この学校に彼女は囚われているから、この学校に封じ込めるのが一番都合が良かったってことらしい。何でフランス人形かというと、亡くなった少女が一番大事にしていた人形だったからという話だ。自宅にあったものをわざわざ封印のために持ってきたという」  ゆらゆら揺れる髪、長い睫毛の瞳、ふわふわのドレスのようなスカート。  デフォルメだが、可愛らしいフランス人形の絵がノートの上に生れ落ちていく。シャープペンで描いているとは思えないクオリティだった。 「封印はされたが、浄化はされていない。彼女の恨みは強く、霊能者でも浄化はできずに封じるだけで精一杯だったからだ。……この人形はまだ、学校のどこかに眠っている。そして、自分を解き放つ手伝いをしてくれる人間を探しているという。もし己の封印を解いてくれたらその代わりに……望んだ人間を一人、呪殺してくれるのだという」  うわあ、と思わず声を上げてしまった。つまり、どうしても殺したい人間がいて自分の手を汚したくない場合、この人形の力を使えばどうにでもなるということだろう。  そんなヤバイ封印、私利私欲のために解き放つなんてどうかしているとしか思えないが。 「もしどうしても殺したい者がいるならば、人形を探すといい。力を貸してくれるかもしれない。……この話は以上だ」 「こっわ」 「怖いわあ。ほんまにそんなヤバイ人形が、うちらの学校にあるん?それ、利用しようとする奴も人間終わっとるとしか思えんけど?」 「本当にあるかどうかなんて知らん。ただ、最近オカルト系のサイトや掲示板では結構評判になってるらしい」  亞音は肩をすくめ、絵を描いたノートのページをめくってみせた。 「あくまで都市伝説だ。ただ、最近になってこういう話をわざわざ流した人間がいるとしたら……ちょっと気になる、とは思わないか。まるで誰かが、怪異の力を強めるために噂を流したみたいでな……」
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