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<3・事実。>
なんでも。
亞音いわく、怪異というものは人に噂されると力を強める傾向にある、というのが彼の持論であるらしい。
ようは宗教と同じなのだそうだ。信じる人がいればいるほど、その信仰心が神様の力になる。同じように、怪異も信じたり恐れたりする人がいることで強い力を発揮するという。
『というか、“トイレの花子さん”を知らない人がトイレで女の子を見つけてもさ、花子さんなんて認識しないだろう?下手をしたら、オバケだということさえ気づいてもらえないかもしれない』
『あー……』
『信じてもらえなければ怖がってももらえない。怪異としての力を発揮できない。そして、花子さんに遭遇したと話を広めることもないわけだ。……だから、怪談が急に広まるとしたら、それはそれで要注意だと俺は思っている。誰かがその怪談に出てくる怪異を、それこそ神格まで押し上げようとしているせいかもしれないからな……』
そこまで深刻に考えなければいいと思うんだけどなあ、というのがゆいなの正直な感想である。
オカルトは好きだしホラーも怪談も大好きだが、それはそれとして信じているわけでもないというのが本心だ。むしろ、さほど信じていないからこそ怖いと思っていないというべきだろうか。
こういうものの多くは、退屈な世界に少しの刺激を求めて楽しむものだと思っているわけで。
それこそ、異世界転生したいとか、チートスキルが欲しいという願望と似たようなものだと思うのだ。自分、あるいは自分の世界がちょっとだけ特別なものだと思いたい。承認欲求もそうだし、退屈な世界に未知な要素という名の刺激があったら面白い、という考え。
きっと広めている人達だってその程度だろう。面白い話だから噂している、人に話して好奇心を共有したい、その程度だ。
本気で信じている人なんて、噂をしている人のうち何人いるのやら。
「って、私は思うんだけどさあ。みんなどう考えるよ?」
夕食の時間。父、母、それから弟のゆいとの三人と一緒に食卓を囲みつつ、ゆいなは今日聴いた話をしたのだった。
うちの学校に、そんな呪いの人形があったら面白いとは思う。それを探してみるのもありかもしれないと思っていた。まあ、ゆいなは殺したいほど憎い相手なんていないし、広い学校のどこにあるのかもわからないのに探し出すなんてほぼほぼ不可能だとは思うのだが。
「あんたねえ、ちゃんと勉強しなさいよ。時々休憩して雑談したくなるのはわかるけど」
そんなゆいなに、母はすっかり呆れているらしい。確かに、せっかく沙穂の家まで乗り込んだのに、成果として語ったのが“課題が終わりました”でも“ちょっと勉強進みました”でもなく学校の怪談だったのだから、がっくり来るのもわかるが。
「宿題ちゃんと終わったの?確かに基本的に中学生で留年はしないけど、完全に例外がないとは言い切れないんだからね。嫌ですからね私、娘が学力不足で卒業できませんでしたーなんて言うの。病気や怪我で長期間休んだなら同情してもらえるでしょうけど」
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