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永久就職
「え?
ごめん、マジで言ってる?」
健二は耳を疑った。
あるキャバクラで働いているという栞は、フロアではなく、厨房だけの勤務だという。
「どうしてそんなに驚くの?」
「いや、だってさ、栞くらい美人だったら……」
言いかけて、健二は言葉を飲みこんだ。
そして、言う事を変えた。
「なあ、店、辞めちゃえよ。」
「ええ?」
「俺の家に就職しな。」
並んで歩きながら、健二はなぜか、ひどい焦りを感じていた。
はじめて会ったはずなのに、会って数分のはずなのに、栞を誰にも取られたくないという思いでいっぱいになっていた。
冗談だと思った栞は笑った。
その手を、健二が強く握った。
ふり向いた栞に向けられた健二の瞳の光は、手よりも強かった。
なぜそこまで強引なのか、健二にもわからなかった。
栞は戸惑いながらもうなずいた。
天涯孤独だった二人は、ドラッグストアで買った物を店に置きに戻ってから、また落ち合って、そのまま消えた。
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