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「なあドルチェ、スライムが金になるんだってよ」
「はぁ?」
宿の部屋にタリアテッレが飛び込んで来たのはいつものことだ。そしてこの少々頭の足りない男が頓狂なことを口走るのもいつものことだ。召喚士の俺と戦士のタリアテッレは幼馴染で、タリアテッレが冒険者になるんだと言って村を飛び出したのが心配で仕方なくついて行ってから此の方、今では一緒に当て所なくフラフラと世界を彷徨っている。
「スライムが金になるはずがないだろ馬鹿。また騙されたか」
「いやほんとだって。ギルドで聞いてきたんだよ。捕まえると一攫千金なんだって」
タリアテッレはいつも酒場で馬鹿みたいな詐欺に騙されるのだが、まさかギルド?
冒険者ギルドは各地をうろつく破落戸たる無頼の徒にほそぼそと仕事と金子を与え、盗賊化することを防ぐ公共施設だ。かくいう俺たちも冒険者としてその名前と職業を登録し、身分証明としている。普通は嘘をつかない。
タリアテッレに聞いてみてもスライムが金になる以上の情報を持ち合わせていなかった。
「スライム依頼のこと? 本当よ?」
「あんなもの、どこにでもいるだろ」
そう告げれば、受付嬢はキョトンと首を傾げた。
スライムというものは汚水なんかが貯まれば核となる物質を基礎として動き始め、勝手に手につくものを捕食し始める。
このゴドレフは国境の街で、ギルドの規模も大きい。受付嬢がこんな基礎的なことを知らないはずがない。そう思っていると、受付嬢はああ、とうなずき説明を始めた。
「あなたたち、国境を超えたばかりなのね。このカレルギアでは少し前までスライムはいなかったのよ」
「スライムがいない?」
油断すれば一般民家の配管からも溢れてくるのに?
「そう。この国では少し前まで魔素がほとんどなくてね。だからスライムなんかは生存できなかったのよ」
というか俺たちはその情報を聞いて、物見遊山でこの地を訪れたことを思い出す。
もともとこの地は大気中に魔法を維持するための魔素がなく、魔法を使えば拡散霧散する魔法使いの天敵の土地だった。けれども近年巨大火山が爆発し、そのマグマ溜りとともに火山に溜まった魔素が噴出したため、少しだけ魔法が使える場所になったのだと。その山は未だ遥か彼方だが、今も黒煙をもうもうと吐きあげている。
噂に期待して来たはいいが予想より格段に魔素は少なく、つまり俺、というか魔法使いの類いはこの土地では使い物にならない。俺が契約している魔物の中でこの魔素量で呼び出せそうなのは最も弱いスライムくらいだ。
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